地域で生産された農林水産物を、地元で消費する取り組みの「地産地消」。地産地消は、地域の活性化や健康的な食生活につながるとして、近年注目を集めている取り組みです。
この記事では、地産地消のメリット・デメリット、問題点と解決策、実際の取り組み事例について紹介します。「地域社会の発展のためにも、地産地消への理解を深めたい」という方は、ぜひ最後までご覧ください。
地産地消とは
地産地消とは、地域で生産された農林水産物を、地元で消費する取り組みです。「地域生産、地域消費」の略語で、地域活性化に貢献する活動として注目を集めています。
近年、食料自給率低下や景品表示法違反など、食に関する社会問題が絶え間なく続いています。消費者の食に対する関心が高まり、安心・安全な食生活を求める人が増えた結果、地産地消に取り組む企業・自治体が増えてきました。
日本における地産地消の現状
農林水産省の統計によると、日本国内の地産地消状況は以下の通りです。
平成18年度の産地直売所1件あたりの平均年間販売額 | 3,387万円 |
年間販売額に占める地場農産物販売額の割合 | 74.3% |
1万人未満 | 62.4% |
1万〜5万人 | 18.9% |
10万人以上 | 10.4% |
3年前と比較した地場農産物の取扱数量が「増えた」 | 39.4% |
3年前と比較した地場農産物の取扱数量が「減った」 | 24.5% |
3年後の地場農産物の取扱数量は「増やしたい」 | 63.5% |
地場農産物の品目数、数量の確保 | 64.8% |
購入者の確保(新規購入者、リピーターの確保) | 54.8% |
参加農家の確保 | 42.3% |
新たな商品・加工品の開発 | 35.5% |
(出典:農林水産省「平成19年農産物地産地消等実態調査」/https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tisan/pdf/tisan_tisyou_07.pdf)
平成18年度の産地直売所1件あたりの年間販売額は、約3,400万円でした。このうち74.3%を「地元で収穫された農産物」が占めており、地産地消の重要性が伺えます。
産地直売所を訪れる購入者数を見てみると、6割以上の産地直売所では、年間購入者数が1万人未満となっています。購入者数を増やすことが、今後の課題として重要なポイントです。
産地直売所における地場農産物の取扱数量は、増加傾向にあります。「地場農産物の取扱数量を増やしたい」との回答が6割以上を占めており、今後のさらなる活性化が期待できます。
課題感は産地直売所ごとに異なるものの、「地場農産物の数量の確保」「購入者の確保」といった課題が多いです。地産地消の普及活動を行いつつ、地域全体が一丸となって地産地消を推進する必要があります。
地産地消のメリット
地産地消のメリットは、以下の通りです。
- 地域生産物の消費拡大につながる
- 食文化への理解が深まる
- 新鮮な食材を販売・購入できる
- 通常の販路よりも利益率が高い
- SDGsに貢献できる
地産地消のメリットについて解説します。
地域生産物の消費拡大につながる
地産地消を推進すると、地域生産物の消費拡大につながります。
産地直売所の多くは、地域生産物を少量から取り扱っており、小規模農家にとってなくてはならない存在です。
不揃い品や規格外品も販売可能なので、地域生産物を無駄にすることなく消費できるでしょう。
食文化への理解が深まる
地域生産物を手に取る機会が増えることで、地元の食文化への理解が深まるのもメリットの1つです。
産地直売所のなかには、生産者の顔や想いを記載したり、食育につながる情報を発信したりする施設も少なくありません。
地産地消を推進し、より多くの人々が産地直売所を訪れることで、地域全体の食文化への理解が深まります。
新鮮な食材を販売・購入できる
生産地との距離が近い産地直売所では、新鮮な食材を購入できます。産地直売所で販売される地域生産物は「いつ、どこで、誰が収穫したのか」が分かるため、安心して食べられる点もメリットです。
生産者側のメリットとしては「どのような商品が人気か」をリサーチしやすい点があげられます。農林水産業を営む人は、消費者目線で産地直売所を訪れると、新たな発見があるでしょう。
通常の販路よりも利益率が高い
地域生産物を産地直売所で販売すると、流通コストが抑えられる分、利益率が高くなります。
生産者の収入が上がるだけでなく、地域の配送業者や販売施設の収入向上も見込めるでしょう。
地域経済の循環を意識して買い物に出かけると、自然と地産地消を推進できます。
SDGsに貢献できる
地産地消は、SDGsへの貢献度合いも大きい取り組みです。地産地消と関わりの深いSDGsの項目は、以下の2つです。
項目 | 詳細 |
---|---|
14 海の豊かさを守ろう | 地域の海でとれたものを地元で消費することで、海洋資源乱獲を抑えられる |
15 陸の豊かさも守ろう | 地域で収穫された農作物を地元で消費することで、陸の資源の保護につながる |
農林水産物の生産効率を高めるには、「必要なときに、必要な分だけ生産する」というのがベスト。地元で消費する分のみを生産すると、海や土壌に過度な負担をかけずに済みます。
地産地消のデメリット
生産者・消費者の両方にメリットがある地産地消ですが、実際には地産地消に否定派の人も存在します。なぜ、地産地消を否定する人がいるのでしょうか?地産地消のデメリットについて解説します。
- 生産者側:農業以外の仕事が増える
- 消費者側:安定供給されるとは限らない
一つひとつ解説します。
生産者側:農業以外の仕事が増える
地産地消を推進すると、生産者側に農業以外の仕事が増えるというデメリットがあります。具体的には、以下のような仕事です。
- 産地直売所への商品搬入
- 売れ残り商品の回収
- 宣伝方法の考案
- 販売ルート開拓
産地直売所で販売する場合、商品となる生産物の搬入から、売れ残り商品の回収まで、一貫して生産者側が行います。
また、自分たちが作る農林水産物の認知拡大、安定した売上増加を目指すためには、宣伝活動や販売ルート開拓も必要です。
消費者側:安定供給されるとは限らない
企業が行う大規模農場での大量生産とは異なり、地産地消では条件しだいで生産量が左右されます。
地元でとれた食材を給食に使用する学校も多いですが、「量が足りない」「種類が少ない」などの状況になりかねないのは、消費者側のデメリットといえるでしょう。
季節や気象状況によっては安定供給が難しくなる点は、あらかじめ理解しておかなければなりません。
なぜ進まない?問題点と解決策を紹介
数多くのメリットがある地産地消ですが、実行に移せない地域も珍しくありません。さまざまなメリットがあるにも関わらず、地産地消はなぜ進まないのでしょうか?地産地消の普及に関する問題点と解決策について紹介します。
- 地産地消の普及活動が足りていない
- 関係省庁との連携に時間がかかる
地産地消の普及活動が足りていない
地産地消という言葉は、農林水産業に関わる人にとっては当たり前の言葉です。
しかし、地産地消にはどのようなメリット・デメリットがあり、具体的にどんな行動をすればいいのか理解している人は少数派です。
地産地消を進めるためには、より多くの人々に地産地消のメリットを理解してもらい、具体的な取り組み事例を知らせなければなりません。
関係省庁との連携に時間がかかる
地産地消の推進でボトルネックになりやすいのが、関係省庁との連携です。関係省庁との連携に時間がかかり、地産地消推進のベストタイミングを逃す事業者も多いので、注意しなければなりません。
例えば、ホテルや旅館などの観光業で地産地消を進めるには、その地域の農林水産業者や共済組合などと連携する必要があります。
地域全体を盛り上げようと大規模になるほど、日程調整や意思疎通が難しくなり、事業展開スピードが低下します。肝心の実行段階が先送りになるリスクもあるため、適切なバランス感覚を持って関係省庁と関わることが大切です。
全国各地の取り組み事例5選
日本国内には、さまざまな形で地産地消に取り組む企業や自治体が存在します。創意工夫を凝らした、地産地消の取り組み事例を紹介します。
北海道三笠市:高校生レストラン「まごころキッチン」
三笠高校調理部の生徒が、調理・接客・コスト管理などを自分たちで行うレストランです。料理の基本である「だし」を大切にし、生徒が考案した地元食材を使った和食中心の料理が提供されています。
北海道を代表するブランド牛の白老牛と赤ワインを使った人気商品「みかさ赤ワイン牛丼定食」は、「第1回食の縁結び甲子園」で優勝を勝ち取りました。
三笠高校の生徒たちは、北海道の食材を使うことで、地元の人たちにも食べて喜んで欲しいと願っています。
高校生レストラン「まごころキッチン」は、三笠市の地域活性化活動として注目されています。地産地消を進めるうえで、参考にしたい事例の1つといえるでしょう。
福島県新地町:学校給食での食育
福島県新地町の小・中学校では、旬の食材や地元で収穫される地場農産物を給食に使用するという取り組みが行われています。学校の栄養教員が考えた献立をもとに、地元でとれた農林水産物を使った給食メニューを提供する取り組みです。
2022年から発行されている「食育しんち」には、実際にどのような食材が使われ、どんな過程を経て生徒に提供されるのか詳しく記載されています。記事を通して、生徒はもちろん保護者にも地産地消を身近に感じてもらい、興味を持ってもらえる取り組みです。
群⾺県川場村:農業と観光のテーマパーク
群馬県川場村では、豊かな自然の恵みを活かした地産地消の取り組みが行われています。
日本百名山の武尊山(ほたかやま)から流れ出す清流に育てられた川場村産コシヒカリ「雪ほたか」は、米・食味コンクールで金賞を受賞したブランド米として有名です。
川場村の道の駅「川場田園プラザ」は、地域活性化の拠点として特に優れた機能を発揮しており、全国モデル道の駅に選ばれました。「農業と観光のテーマパーク」を目指すための施策として、参考にしたい取り組み事例です。
愛知県豊⽥市:CSAプロジェクト
愛知県豊田市にある押井の里では、「源流米ミネアサヒCSAプロジェクト」という取り組みが行われています。CSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)とは、生産者と消費者が連携し、お互いに支え合う仕組みです。
押井の里は愛知県豊田市の山村部に位置しており、わずか25世帯ほどの小さな集落。人口減少や少子高齢化が加速しており、里の存続のためにも何か打ち手が必要な状況でした。
源流米ミネアサヒCSAプロジェクトは、「生きるために食べる量だけを自給する農の営み」という里の風習にスポットを当てた取り組みです。生産者と消費者が1つの家族としてお米を自給することで、安全で美味しいお米の提供が実現しました。
押井の里で栽培されるミネアサヒは「幻のお米」と呼ばれるようになり、地産地消の成功事例としても注目されています。
岡⼭県笠岡市:病院・介護施設における地産地消
岡山県笠岡市の医療法人緑十字会では、病院・介護施設の利用者に喜ばれる地産地消の献立作りに取り組んでいます。
「地元食材を活かした献立を作りたい」と願う管理栄養士が、地元の生産者と直接交渉して、笠岡ブランド牛などを取り入れたのが始まりでした。
食材情報をメニューに添えたり、施設の掲示板で紹介したことで、施設利用者やご家族に喜びを与えました。
医療法人緑十字会の取り組みは岡山県からも高く評価され、医療機関では初の「おかやま地産地消協力施設」の認定を受けました。
まとめ:地産地消のメリット・デメリットを理解しよう
地域社会の活性化、SDGsへの貢献など、地産地消に取り組むことで、さまざまなメリットが期待できます。しかし、普及活動の不足や関係省庁との連携などが問題となり、まだまだ改善の余地があるのが現状です。
地産地消を進めるためには、一人ひとりがメリット・デメリットをよく理解して、過去の成功事例を参考にしながら行動することが重要です。「地域社会を盛り上げたい」「地産地消を普及させたい」という方の参考になれば幸いです。