フードマイレージを減らすには?簡単な計算方法や日本の取り組みについて解説

食料の輸送量と輸送距離の掛け合わせで算出されるフードマイレージ。食料輸送による環境負荷を評価する際によく使われる指標です。

しかし、フードマイレージの活用にはいくつか注意点が存在し、ポイントを押さえなければ誤った評価になる可能性があります。

そこで今回は、フードマイレージの計算方法や活用時の注意点、フードマイレージを減らす取り組みについて解説します。食と環境の関係を考えるうえで重要な指標なので、概念から使い方まで確実に押さえておきましょう。

フードマイレージとは

フードマイレージとは

フードマイレージとは、食料の輸送が地球環境に与える負荷を数値化した指標です。「食料の輸送量(t)」と「輸送距離(km)」を掛け合わせて求められます。

1990年代に、イギリス農業連合の一員であったTim Lang(ティム・ラング)が、「フード・マイルズ」という概念を提唱したのが始まりです。「地元で生産された食材を選び、環境負荷を減らそう」と呼びかける市民運動をきっかけに広く知られるようになりました。

イギリスの「フード・マイルズ」を参考に、2001年頃には日本でも「フードマイレージ」という概念が誕生。食料の輸送が地球環境に与える影響を数値化して管理するようになりました。

フードマイレージの計算方法

フードマイレージの計算方法は以下の通りです。

「輸送量(t)」×「輸送距離(km)」
=「フードマイレージ(t・km)」

※単位:t・km(トン・キロメートル)

例えば、10tの穀物を輸送する場合を考えてみましょう。

  • 新千歳空港から羽田空港:820km
    フードマイレージ:10t×820km=8,200t・km
  • ニューヨークから羽田空港:10,890km
    フードマイレージ:10t×10,890km=108,900t・km

フードマイレージを計算することで、食料の輸送による環境負荷を簡単に比較できます。

フードマイレージの現状

フードマイレージの現状

食料輸送による環境負荷を数値化できるフードマイレージですが、具体的にどの程度であれば「高い」と判断されるのでしょうか。

フードマイレージが低い国の特徴と、日本のフードマイレージが「高い」といわれる理由について解説します。

フードマイレージが低い国の特徴

代表的な国のフードマイレージは、以下の表の通りです。

フードマイレージ
(単位:百万t・km)
日本 900,208
韓国 317,169
アメリカ 295,821
イギリス 187,986
ドイツ 171,751
フランス 104,407

(出典:食料の総輸入量・距離(フード・マイレージ)とその環境に及ぼす負荷に関する考察/https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/seisaku/005.html

2001年のデータを見てみると、日本のフードマイレージは世界的にも高い数値です。一方、イギリス・ドイツ・フランスなどのヨーロッパ諸国のフードマイレージは低い傾向にあります。

フードマイレージが低い国の特徴は、以下の通りです。

  • 食料自給率が高い
  • 食料の輸入量が少ない
  • 人口が少ない

フードマイレージが低い国は食料自給率が高く、輸入に頼らずとも自国で完結できる食料供給体制が整っています。

また、人口が少ないと必要な食料も少なくて済むため、他国からの輸入量を抑えられるのもポイントです。

日本のフードマイレージが高い理由

日本のフードマイレージが高い理由は、以下の通りです。

  • 食料自給率が低い
  • 食料の輸送距離が長い
  • 環境問題への意識が低い

世界的に環境問題への意識が高まっている現在では、フードマイレージを抑えるための取り組みが重要です。

日本のフードマイレージが高い理由について、一つひとつ解説します。

食料自給率が低い

日本は、諸外国と比較して食料自給率が低い国です。

日本の食料自給率
品目 カロリーベース
食料自給率
生産額ベース
食料自給率
99% 100%
野菜 75% 87%
魚介類 49% 41%
砂糖類 34% 55%
果実 30% 62%
大豆 25% 35%
畜産物 17% 47%
小麦 16% 17%
油脂類 3% 30%

(出典:農林水産省「令和4年度食料自給率について」/https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-5.pdf

日本は山地が多く平地が少ないため、農地面積を増やすのが困難な国土です。人口が多い割に国土が狭く、限られた農地面積で収穫量を増やさなければなりません。

醤油や豆腐の原材料として欠かせない大豆や、食事の欧米化に伴い需要が増えた肉類など、多くの食料を輸入に頼らざるを得ない状況が続いています。

食料の輸送距離が長い

日本は島国であり、食料を輸入する際の輸送距離が長くなるのが特徴です。

フードマイレージは、食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせた数値であるため、日本のフードマイレージは他国よりも高くなりがちです。

実際には輸送手段により環境への負荷は変化するものの、輸入量が多い日本ではいずれの手段を用いても環境負荷が大きくなってしまいます。

環境問題への意識が低い

日本人は、欧米人と比較して環境問題への意識が低い傾向にあります。食事と環境問題の関係性を理解している人は少数派で、フードマイレージと聞いてもピンとこない人が大半です。

また、環境問題解決に向けた取り組みを、国や企業に任せっきりにしている人も少なくありません。

世界的に環境問題への取り組みが重要視されている現代では、日本人一人ひとりの環境意識を高めることが求められています。

フードマイレージを減らすには

フードマイレージを減らすには

フードマイレージを減らすための取り組みとして、個人・企業でできることを紹介します。

  • 国産の食材を購入する
  • 地産地消を心がける
  • フードマイレージが低い食料に置き換える
  • モーダルシフトを推進する

フードマイレージを減らすには、個人・企業ができることを地道に積み重ねていくしかありません。フードマイレージ低下につながる4つの取り組みについて紹介します。

国産の食材を購入する

フードマイレージを減らすための最も簡単な方法は、国産の食材を購入することです。

スーパーやコンビニで買い物をする際は、国産の肉や魚を購入したり、国産の原材料を使用した商品を購入すると、フードマイレージ低下に貢献できます。

  • 国産と外国産が並んでいたら、国産を選ぶ
  • 週に1日は国産食材しか食べない日を作る

国産食材の消費拡大により、海外からの食料輸入量を抑えられると、フードマイレージの大幅な低下が期待できるでしょう。

地産地消を心がける

フードマイレージの概念は、日本国内における食料輸送にも適応できます。

例えば、「北海道産の食料を東京で消費」するよりも、「千葉県産の食料を東京で消費」するほうがフードマイレージを低く抑えられます。

地域で生産された食料を、その地域で消費する「地産地消」を心がけると、国内におけるフードマイレージを減らせるでしょう。

地産地消については以下の記事で詳しく解説しているので、今回の内容も踏まえたうえでご覧ください。

フードマイレージが低い食料に置き換える

企業が使用する食材を可能な限り国産のものに置き換えるのも、フードマイレージを下げるために効果的な方法です。

食品製造会社や飲食店のなかには、フードマイレージを減らすための取り組みを行っているところも少なくありません。

フードマイレージを減らすための取り組み事例
会社名 取り組み
株式会社チョイスホテルズジャパン 全国のコンフォートホテルで、地元食材を使用した「地産地消メニュー」を提供
株式会社セブン‐イレブン・ジャパン セブンイレブンでは、地産地消の取り組みとして、地域密着型の商品開発を実施
山崎製パン株式会社 地元で収穫された米を使ってパンを作り、その地域で販売

近年は企業の業績だけでなく、フードマイレージ低減のようなサステナビリティへの取り組みも重要視されています。

人々からの信頼を獲得して企業価値を高めるためには、持続可能なビジネスを展開することが重要です。

モーダルシフトを推進する

モーダルシフトとは、環境負荷が大きい輸送手段を、環境負荷が小さい輸送手段へと転換することです。

  • トラック輸送から鉄道や船舶輸送へ切り替える
  • 都市間の幹線貨物輸送を公共交通機関にシフトする
  • 1度に大量輸送できる輸送手段に転換する

モーダルシフトを推進すると、食料輸送に伴う二酸化炭素の発生を抑えることができます。

二酸化炭素の排出量は、運送会社のトラックと比較すると、船舶は1/5以下、鉄道は1/10以下となり、環境への負荷を大幅に軽減できます。

トラック輸送が中心となっている会社は、輸送手段の変更も検討してみると良いでしょう。

フードマイレージ活用時の注意点

フードマイレージ活用時の注意点

フードマイレージを活用する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。

  • 輸送機関によって環境負荷が異なる
  • フードマイレージは輸送に限定した指標にすぎない

フードマイレージを正しく活用するためにも、2つの注意点を押さえておきましょう。

輸送機関によって環境負荷が異なる

フードマイレージは、食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせて算出される数値です。「どの輸送機関を使用するか」は考慮されておらず、あくまでも環境負荷の目安にすぎない点は理解する必要があります。

輸送機関ごとの環境負荷は、以下の表の通りです。

タイトル
輸送機関 二酸化炭素排出量
貨物自動車(トラック) 7,363万トン
内航海運 1,010万トン
鉄道 751万トン
航空 682万トン

(出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」/https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

2021年度のデータを見ると、トラックのような貨物自動車による二酸化炭素排出量が多いことが分かります。鉄道や飛行機よりも小回りが効いて利便性が高いというメリットがある一方で、トラックによる輸送は大きな環境負荷につながることは理解しておかなければなりません。

このように、フードマイレージの数値が同じでも、実際の環境負荷は輸送機関によって異なります。フードマイレージを活用する際は、輸送機関の影響も考慮しましょう。

フードマイレージは輸送に限定した指標にすぎない

フードマイレージは、食料輸送に限定した指標に過ぎません。食料の生産・加工・廃棄の段階で生じる環境負荷は、フードマイレージとは別で考える必要があります。

フードマイレージが低くても、食料の生産・加工・廃棄の仕方が良くないと、環境に悪影響を与えかねません。包括的な視点から食料供給を見直すと、環境負荷軽減に向けたヒントが見つかるでしょう。

まとめ:フードマイレージを減らすために私たちができること

フードマイレージを減らすために私たちができること

フードマイレージとは、食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせた数値です。食料輸送による環境負荷を考える際に重要な指標で、フードマイレージを減らすための取り組みが求められています。

フードマイレージを減らすには、地産地消を心がけたり、モーダルシフトを推進したりするのが効果的です。輸送機関の違いや食料生産プロセスなどにも注目しながら、環境問題解決に向けた取り組みを実践していきましょう。