牛のエサには多くの種類があり、それぞれが特有の役割を持っています。「牛の健康状態は、エサの種類や品質によって左右される」といっても過言ではありません。どのようなエサを与えるかによって、乳量や肉質にも変化が見られるため、酪農畜産の現場で働く上でエサの知識は必須です。
今回は、牛のエサの種類と役割について、丁寧に解説していきます。牛の健康を維持しながら生産性アップを目指すためにも、ぜひ参考にしてください。
牛のエサに求められる4つの条件とは?
牛のエサに求められる条件は、次の4つです。
- 一定の栄養素が含まれている
- 有害物質が含まれていない
- 牛の嗜好性が良い
- 安価である
牛が健康を維持しながら成長していくためには、エサから十分な栄養素を摂取しなければなりません。
毒素やカビなどの有害物質が含まれていると、牛が体調を崩すだけでなく、牛乳や牛肉といった生産物にまで悪影響を及ぼす可能性があります。
嗜好性とは、おいしく感じるかどうかをあらわす指標です。真夏の猛暑が続く時期や、病み上がりのタイミングは、牛の食欲も低下します。嗜好性が良いエサを与えることで、体力回復にかかる時間を短縮できるでしょう。
農場経営の観点からすると、エサ代にも気をつけなければなりません。なるべく安価で栄養価の高いエサを選ぶためには、エサの種類と役割に関する知識が必要です。
牛のエサの種類と役割
牛のエサは、粗飼料と濃厚飼料に分けられます。
粗飼料の種類と役割
粗飼料は、家畜の維持飼料として利用されています。維持飼料とは、「家畜の健康を維持するために必要な飼料」という意味です。
粗飼料の具体例は次の通りです。
分類 | 具体例 |
---|---|
イネ科牧草 | イタリアンライグラス、チモシーグラス、オーチャードグラス |
マメ科牧草 | アルファルファ、クローバー |
ワラ類 | 稲ワラ、麦稈、大豆稈 |
青刈り飼料作物 | トウモロコシ、イネ、ソルガム |
圃場副産物 | 野菜類の茎葉、くず野菜 |
国や地域によって栽培できる作物の種類が異なるため、牛のエサを輸入に頼っている農家さんも少なくありません。
粗飼料には、主に4つの役割があります。
- ルーメンマットの形成
- 反芻反射を誘導する
- 第一胃容積を保つ
- 栄養分の供給
ルーメンマットとは、牛の第一胃にみられる繊維状構造のことです。牛の第一胃には微生物が生息しており、牛が食べた草を分解するという役割を担っています。十分な厚さのルーメンマットが形成されると、牛が食べた草が第一胃にとどまる時間が長くなり、消化吸収されやすい形になるというわけです。
反芻反射を誘導するのも、草の消化吸収効率を高めるためには重要なことです。牛は、食べたものを反芻して再咀嚼することで、微生物による分解をサポートしています。粗飼料が不足すると反芻反射が誘導されず、未消化の便が見られるようになります。
第一胃容積を大きく保つというのは、特に乾乳牛において重要です。第一胃が小さいと、分娩後に第四胃変位やケトーシスといった病気になるリスクが高まるためです。病気の予防という意味でも、分娩前から粗飼料の摂取量を不足させないための工夫が必要になります。
粗飼料の分類
粗飼料は、貯蔵方法により3種類に分類されます。
■乾草
生草を乾燥させて保存したものを「乾草」と呼びます。
■サイレージ
「サイレージ」とは、生草のまま貯蔵する方法です。乳酸発酵によるものと、そうでないものの2種類があります。
- 乳酸発酵によりpHを下げて雑菌の増殖を抑える方法
- ラッピングにより空気を遮断して腐敗を防止する方法
サイレージには、短時間で調整できるというメリットがある一方で、水分過多・糖分不足・土砂混入によりエサの品質が低下しやすいというデメリットもあります。サイレージのデメリットを解消する方法として注目されているのが、発酵TMRという方法です。
■発酵TMR
完成したサイレージに濃厚飼料や各種添加物などを混合したのち、ラッピングして再発酵させる方法を「発酵TMR」と呼びます。発酵TMRはラッピング開放後も腐敗しにくく、牛の嗜好性が高いという特徴があります。
製造に手間がかかるものの、エサの品質という観点からすると優れた方法といえるでしょう。
品質の良いサイレージの見分け方
品質の良いサイレージを見分けるためには、6つのポイントがあります。
- 刈り遅れでない
- マメ科牧草が多い
- 葉部の割合が高い
- においがない
- さらっとした触感
- 明るい黄緑色
サイレージの品質をチェックする際の参考にしてください。
濃厚飼料の種類と役割
濃厚飼料は、生産飼料として利用されています。生産飼料とは、「牛乳のような生産物を生産するために必要な栄養を与える飼料」という意味です。
濃厚飼料の具体例は次の通りです。
分類 | 具体例 |
---|---|
穀類 | 小麦、えん麦、ライ麦 |
マメ類 | トウモロコシ、ソルガム、大豆 |
ヌカ類 | フスマ、米ヌカ |
製造粕類 | ビートパルプ、ビール粕、豆腐粕、ジュースの搾り粕 |
油粕類 | 大豆粕、ナタネ粕 |
家畜の健康を維持しつつ生産効率を高めるためには、濃厚飼料の種類ごとにどのような栄養素が含まれているのか理解しておかなければなりません。
濃厚飼料の分類
濃厚飼料は、含まれている栄養素によって3種類に分類されます。
種類 | 役割 |
---|---|
炭水化物飼料 | 家畜のエネルギー源 |
タンパク質飼料 | 筋肉の維持・発達 |
油脂飼料 | 増体効果、乳脂率アップ |
牛肉や牛乳の生産効率を高めるという意味でも、濃厚飼料の管理は重要です。
A飼料・B飼料とは?
濃厚飼料には、A飼料とB飼料の2種類があります。A飼料とは「牛などの反芻動物に給与しても良い飼料」、B飼料とは「それ以外の飼料」をあらわす用語です。
なぜ、濃厚飼料は2種類に分けられているのかというと、人間の食の安全性を守るためです。
濃厚飼料メーカーは、動物性飼料が含まれているかどうかによって「A飼料」「B飼料」と呼び方を分けているわけです。工場での飼料製造から、農場での牛への給与にいたるまで、B飼料がA飼料に混ざることがないように厳しく規制しています。
まとめ
牛のエサは、大きく分けると「粗飼料」と「濃厚飼料」の2種類に分類されます。粗飼料は牛の健康を保つ役割を、濃厚飼料は生産物をつくるための栄養源という役割を果たしており、いずれもなくてはならない存在です。
酪農畜産の仕事をする上で、エサの特性に合わせて適切に使い分けられるというのは強みになります。今回の内容を参考にしながら、牛が普段食べているエサに注目してみると、面白い発見があるかもしれませんよ。