子牛を育てるうえで大切なのが、ミルクやエサの管理です。適切なタイミングで適切な量を給与しなければ、発育が悪くなるだけでなく病気の原因にもなります。特に生まれたばかりの子牛は免疫力も弱いため、慎重に管理しなければなりません。
今回は、出生直後から離乳後までの子牛の飼養管理について紹介します。最後まで読んでいただけたら、子牛の哺乳やエサに関する基礎知識をひと通り網羅できます。より生産性の高い農場経営をするためにも、ぜひ参考にしてください。
生まれたばかりの子牛の管理
生まれたばかりの子牛は呼吸もままならない状態で、免疫力もほとんどありません。まずは最低限の「生きる力」をつけさせるためにも、次の3ステップを行いましょう。
- 親牛に舐めさせる
- 早めに親と分離する
- 初乳を飲ませる
親牛が子牛を舐めることを「リッキング」といいます。リッキングの刺激により、子牛の呼吸が促進され、初乳の吸収も良くなります。親牛が子牛を舐めないときは、人間の手でやや強めにマッサージしてあげましょう。リッキングと同じような効果が期待できます。
子牛の呼吸が落ち着いたら、速やかに親牛と離します。人間が親代わりであることを子牛に認識させるためです。出生直後の子牛は免疫力が弱いため、清潔で乾燥した環境で飼養する必要があります。
出生後は、できるだけ早く初乳を飲ませるのも大切です。ただし自力で飲まない子牛の場合は、消化機能が不十分である可能性も考えられます。2〜3時間休ませてから、再び初乳を飲ませましょう。
初乳の重要性と給与の仕方
初乳には、「子牛に必要な栄養素を補給する」「感染症を防ぐための免疫を賦与する」といった重要な役割があります。初乳をきちんと飲むかどうかで、その後の発育が左右されるといったも過言ではありません。
初乳の特徴
牛の初乳中には、カゼイン・脂肪・ビタミン・ミネラル・免疫グロブリンなどが豊富に含まれています。なかでも特に重要なのが、免疫グロブリンという物質です。
新生子牛は、親牛からの移行抗体を初乳経由で受け取る(胎盤経由では受け取れない)ため、初乳を飲まなければ免疫力がほとんどない状態です。実際に、初乳を飲まなかった子牛では、下痢症や呼吸器疾患の罹患率が上昇するというデータも少なくありません。
やや専門的な話ですが、初乳にも高品質なものと低品質なものが存在します。比重1.047以上の初乳は免疫グロブリンが高濃度に含まれており、初乳としての価値が高いとされています。一般的には「経産牛の初乳中の免疫グロブリンは、初産牛よりも高い」ということも覚えておくと良いでしょう。
初乳の給与方法
新生子牛に初乳を飲ませる場合は、次の3つが大切です。
- 第1回目の初乳給与は、できるだけ早くに1L飲ませる
- 第2回目の初乳給与は、生後6時間以内に1〜2L飲ませる
- 生後24時間以内に、合計5〜6Lの初乳を飲ませる
やや乱暴な言い方をすると「初乳はなるべく早くたくさん飲ませる」ことがポイントになります。新生子牛が元気に育っていくために必要不可欠なものなので、しっかりと飲ませてあげましょう。
初乳製剤の使い方
実際の現場では、「ヘッドスタート」「さいしょのミルク」のような初乳製剤を使っている農家さんもたくさんいます。たしかに初乳製剤は、通常の代用乳と比べると栄養素が豊富ですが、初乳の代わりに積極的に給与すべきものではありません。
あくまでも子牛が初乳を十分に摂取できなかった場合に限って、補助的に使うことをおすすめします。
哺乳期の子牛の管理
哺乳期の子牛の管理では、次の3つがポイントです。
- 清潔な飼育環境を維持する
- 臍帯炎を予防する
- 哺乳量に注意する
下痢や肺炎を防ぐためには、飼育環境を清潔に保つ必要があります。乾燥した敷料と適度な換気を意識しましょう。
出生後の子牛のなかには、臍帯(へその緒)が残っている子も少なくありません。臍帯は完全に乾燥するまでは細菌が侵入しやすい状態になっているため注意が必要です。子牛のへそがカラカラに乾燥するまでは、朝夕2回のヨーチン消毒を続けましょう。
子牛の哺乳量に関しては、生後1週間未満とそれ以降で分けて考えるのがポイントです。
1日あたりの哺乳量
生後2日から1週間は、移行乳の給与期間です。初乳から通常の代用乳へと徐々に馴らしていきましょう。
- 1日あたりの哺乳量は「体重の約10%」が目安
- 生後3日目から水とスターターの馴らし給与開始
生後1週間以降は、下記の哺乳量を目安にしてください。
- 乳牛:1日あたり約6L
- 肉牛:1日あたり約5L
子牛の成長具合にもよりますが、生後40日前後で離乳となります。
強化哺乳とは?
強化哺乳とは、通常の哺乳量よりも多くのミルクを飲ませることで子牛の成長を促進し、短期間で大きな体格を得ることを目的とした方法です。強化哺乳で大事なのは、タンパク質割合を高めて脂肪割合を低くすること。子牛が飲めるだけ飲ませればいいというのは大きな間違いです。
間違ったやり方で強化哺乳すると、次のようなリスクがあります。
- 消化器官に負担がかかり、下痢症の原因になる
- 体脂肪率が増加する(発育ではなく、ただの肥満)
- 飼養管理のコストが増大する
早く大きく育てようとした結果、子牛が体調不良になってしまっては元も子もありません。基本に忠実な飼養管理がベストです。
離乳後の子牛の管理
子牛の場合、生後2か月齢までは単独飼いが基本となります。乾燥した敷料を豊富に与え、石灰消毒した隔離房(カーフハッチ)を活用し、清潔な状態を保つことが大事です。
離乳後2〜3か月の間は、子牛ごとの発育状態を考慮しながら群飼育へと移行します。
1日あたりのエサの量
離乳後の子牛には、粗飼料と濃厚飼料の混合飼料を給与します。
給与量の目安は、1日あたり体重の約2.5〜3.0%です。
たとえば、200kgの牛なら1日あたり5〜6kgのエサを与えることになります。
子牛の標準体重の計算式
生後3〜15か月齢までの子牛の標準体重は、次の計算式で推計できます。
月齢ごとの体重を目安にしてエサを与えると、過不足ない飼養管理ができるでしょう。
ただし、上記の計算式は品種・性別・飼育方法の違いによる個体差は考慮していません。実際には牛によって大きな体格差があるので、参考程度にしておいてくださいね。
まとめ
子牛の飼養管理において最も重要なのが、ミルクとエサの管理です。特に出生直後の新生子牛は免疫力が弱いため、初乳の給与が欠かせません。初乳を正しく給与できるかどうかによって、その後の発育が左右されます。適切なタイミングで、適切な量の初乳を飲ませましょう。
今回は、出生直後から離乳後まで、それぞれのステージにおける適切な飼養管理について解説しました。子牛のミルクやエサの量で悩んだときは参考にしてくださいね。