牛の診療をするうえで、血液検査を行う場面は少なくありません。検査をうまく活用すれば患畜の状態を的確に判断できるだけでなく、治療方針を考える場合にも役立ちます。
しかし検査結果の読み方を理解していないと、動物に余計な苦痛を与えるばかりか、診断の精度にまで悪影響を及ぼします。
今回は、牛の血液検査の基準値一覧と、検査結果の見方について紹介します。「検査結果の見方が分からない」「診断の精度を上げたい」という方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
血液検査の重要性
病気の牛を診断するとき、畜主への問診や身体検査だけでは的確な判断をすることが困難な場合があります。病態がはっきりとせず、何が原因で具合が悪いのか不明な症例に遭遇する場合もあるでしょう。
「症状としてあらわれない潜在的な問題」にまで対処するためには、臨床検査が必要です。
臨床検査には、検体検査と生体(生理)検査の2種類があります。
- 検体検査の例:血液、尿、糞便、スワブ、穿刺液、生体組織片、第一胃液
- 生体検査の例:X線、超音波、CT、MRI、内視鏡
臨床検査を行うことで、獣医師による診断材料が増えるだけでなく、治療方針を検討する際に客観的な視点をもてるというメリットがあります。
臨床検査の注意点
臨床検査を行う際は、必要最低限の検査項目に絞ることが大事です。問診や身体所見と関係ない項目まで検査していると、畜主への経済的負担が増加するだけでなく、診断の精度にも影響します。
初診の時点である程度は見当をつけてから、必要な項目に絞って検査を行いましょう。
牛の血液検査の基準値一覧
牛の血液検査における代表的な項目とその基準値について紹介します。
ただし血液検査の結果は、牛の年齢・飼育環境・採材方法・採材時刻・処理方法・保存方法・検査方法・検査機器・試薬の種類などによって差があります。
基準値も文献によって異なるので、下記の数値も参考程度にしてください。
項目 | 基準値 | 単位 |
---|---|---|
赤血球数 (RBC) |
500万〜1,000万 | /μL |
ヘモグロビン量 (Hb) |
10〜15 | g/dL |
ヘマトクリット値 (Hct) |
25〜45 | % |
平均赤血球容積 (MCV) |
40〜60 | fL |
平均赤血球Hb量 (MCH) |
8〜12 | pg |
平均赤血球Hb濃度 (MCHC) |
30〜36 | g/dL |
血小板数 | 10万〜80万 | /μL |
白血球数 (WBC) |
4,000〜12,000 | /μL |
好中球数 (桿状核) |
50〜720 (1〜6) |
/μL (%) |
好中球数 (分葉核) |
800〜5,400 (15〜45) |
/μL (%) |
リンパ球数 | 2,300〜9,000(45〜75) | /μL (%) |
単球数 | 100〜800(2〜7) | /μL (%) |
好酸球数 | 100〜1,400(2〜12) | /μL (%) |
好塩基球数 | 0〜100 (0〜2) |
/μL (%) |
クレアチンキナーゼ (CK) |
5.0〜12.0 | IU/L |
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) |
40〜130 | IU/L |
乳酸脱水素酵素 (LDH) |
700〜1,450 | IU/L |
アルカリホスファターゼ (ALP) |
30〜100 | IU/L |
γ-グルタミルトランスペプチダーゼ (γ-GTP) |
15〜40 | IU/L |
アルブミン/グロブリン比 (A/G比) |
0.80〜1.20 | |
ナトリウム (Na) |
130〜150 | mEq/L (mmol/L) |
カリウム (K) |
4.0〜5.5 | mEq/L (mmol/L) |
クロール (Cl) |
95〜110 | mEq/L (mmol/L) |
カルシウム (Ca) |
9.5〜13.0 | mg/dL |
無機リン (IP) |
5.5〜6.5 | mg/dL |
マグネシウム (Mg) |
1.5〜2.5 | mg/dL |
牛の血液検査結果の見方
血液検査をするときは、「その結果から何を読み取るか?」が大事です。
血液検査の結果から診断しやすい指標について、いくつか紹介します。
赤血球の異常
赤血球数の減少・増加は、貧血・多血症の指標となります。
貧血
貧血とは、赤血球数・ヘモグロビン量・ヘマトクリット値などが低下した状態です。血液検査により病態を把握しやすい代表的な疾患といえるでしょう。
一口に貧血といっても、いくつか種類が存在します。
分類 | MCV | MCHC | 貧血の例 |
---|---|---|---|
小球性・ 低色素性 |
低下 | 低下 | 鉄欠乏性貧血 |
正球性・ 正色素性 |
正常 | 正常 | 再生不良性貧血 白血病 腎性貧血 溶血性貧血 失血性貧血 |
大球性・ 正色素性 |
増加 | 正常 | 巨赤芽球性貧血 |
球状赤血球 | 低下 | 正常 | 溶血性貧血 |
血液検査を行うと、何が原因で貧血になっているのか判断することができます。
多血症
多血症には、相対的なものと絶対的なものの2種類があります。
- 相対的多血症:血液中の液体成分である血漿が減少した結果、血液の単位体積あたりの赤血球量が相対的に増加した状態
- 絶対的多血症:赤血球の絶対数が増加した状態
牛などの家畜で見られる多血症は、そのほとんどが相対的な多血症です。脱水・ショック・イレウス・激しい運動・興奮・ストレスなどが原因で、相対的多血症になる場合があります。
白血球の異常
白血球数の増加は、特定の疾患と関連している場合が多く、血液検査をすることで病態を把握しやすくなります。
好中球
体内で炎症が起きたり細菌が感染したりすると、好中球数が増加します。
炎症や感染が重度で好中球の消費が激しいときは、末梢血において未熟な好中球(桿状核)が増加します。これが「好中球の左方移動」と呼ばれる現象です。
リンパ球
リンパ球数は、腫瘍性疾患の診断でよく使われる項目です。
地方病性牛伝染性リンパ腫では、リンパ球数の増加・異形リンパ球の増加が認められます。
ただし血液像の変化だけでは診断できない症例も多いため、疑わしい症例はウイルス抗体検査が必要です。
散発性牛伝染性リンパ腫は、ウイルスとは無関係に発症するため、確定診断をするには組織検査を実施しなければなりません。
好酸球
好酸球数は、寄生虫疾患やアレルギー反応で増加します。
筋疾患
クレアチンキナーゼ(CK)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、乳酸脱水素酵素(LDH)は、筋肉に特異的な酵素です。
何らかの原因により筋繊維が障害を受けると、血中に逸脱するため血中濃度が上昇します。
これらの酵素の血中濃度の上昇は、急性あるいは進行性の筋繊維損傷時には顕著ですが、慢性的な場合は正常値の範囲内であることも多いです。
まとめ
牛の臨床において、血液検査の実施は有効な手段の1つです。病態の把握に役立つだけでなく、的確な診断のサポートにもなります。
血液検査の基準値は文献によって差があるため絶対的なものではありませんが、それぞれの数値の変化が何を示唆しているのか理解しておくことは大切です。
実際の現場で血液検査をする際は、今回の内容を参考にしてみてください。