牛の体内の水分量はどれくらい?水分バランスが崩れる原因と対処法も

  • 2023年4月12日
  • 2023年4月20日
  • 農業
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人間の体と同様に、牛の体も大部分が水分で構成されています。体内の水分は、体温調節・栄養素の運搬・代謝産物の排泄・消化吸収のプロセスなど、さまざまな役割を果たしています。水分は生命の維持にも関わる重要な要素であるため、しっかりと理解しておかなければなりません。

今回は、牛の体内の水分量や、水分バランスが崩れる原因と対処法について紹介します。後半では、子牛でよく使われる脱水レベルの判定方法や輸液量の計算式もまとめておきました。日々の診療や健康チェックの際に活用してみてください。

牛の体内の水分量はどれくらい?

牛の体内の水分量はどれくらい?

牛の体内の水分量は、次の通りです。

  • 成牛:体重の約60-70%
  • 子牛:体重の約70-80%

年齢・体調・妊娠状況・乳量などによって変動するものの、大まかな目安は上記の通りです。

搾乳牛では、乳分泌のために大量の水分が必要となるため、体内の水分量がより多くなる傾向にあります。

牛の体内に取り込まれた水分は、血液となって栄養素を運搬したり、尿となって代謝産物の排泄に使われたりします。

牛の血液量

牛の全血液量は、体重の約1/13程度だと言われています。百分率であらわすと、成牛で体重の約7-8%、子牛で体重の約8-9%が血液量の目安です。

  • 体重650kgの成牛の場合、全血液量は約50kg
  • 体重40kgの子牛の場合、全血液量は約3kg

血液は牛の全身を循環し、健康・栄養に関わるさまざまな役割を果たしています。

牛の尿量

牛の尿量は、成牛で1日あたり10L前後となるのが一般的です。ただし尿量に関しては、品種や外部環境により差がみられることも多く、血液量と比べると個体差は大きくなりがちです。

牛の種類による排尿量は、次の数値を目安にすると良いでしょう。

尿量(kg/日)
搾乳牛 13
乾乳牛 6
肉牛 7

尿石や腫瘍により尿道閉塞が生じると、排尿がピタッと止まってしまいます。「陰部周辺が常に乾燥している」「排尿する姿を見ていない」という場合は、尿道が詰まっている可能性があるため、早急な対応が必要です。

牛の飲水量

成牛は1日あたり約40-60Lの水を飲みます。搾乳牛の場合は、泌乳により多くの水分が失われるため、1日に100L以上の水を飲むことも少なくありません。

牛の水分バランスを適切に維持するためには、十分な量の水を常に利用できるような環境を整えることが重要です。特に夏場の暑い時期は、飲水量が減ると熱中症になる恐れもあるため注意しましょう。

脱水・貧血・浮腫について

脱水・貧血・浮腫について

牛は、体内の水分バランスが乱れると、体調不良に陥ります。水分バランスの乱れとしてよくあるのが、脱水・貧血・浮腫の3つです。

脱水とは

脱水(dehydration)とは、体内の水分量が正常なレベルよりも不足している状態です。脱水の原因は、「水分摂取量の低下」「水分喪失量の増加」のどちらかになります。

成牛の場合は、盗食による第一胃アシドーシスや、第四胃の拡張・捻転により重度の脱水症状が見られることがあります。一方、子牛では下痢症により体内の水分が失われ、脱水状態になる場合が多いです。

貧血とは

貧血(anemia)とは、血液中の赤血球あるいはヘモグロビンが減少している状態です。眼・口腔内・陰部の粘膜が白っぽくなったり、心拍数が増加したりします。

牛の貧血は、失血性・溶血性・赤血球の産生異常に分類されます。

失血性貧血とは、大量出血・寄生虫感染・第四胃の潰瘍などによって体内の血液量が減少することで生じる貧血です。

溶血性貧血とは、血液中の赤血球が正常に機能しなくなり、体のすみずみまで酸素を供給できなくなることで生じる貧血です。バベシア症・アナプラズマ症・マイコプラズマ症などによる感染性の溶血性貧血、タマネギ中毒・産褥性血色素尿症などによる非感染性の溶血性貧血に分類されます。

浮腫とは

浮腫(edema)とは、皮下の組織間隙に過剰な体液が蓄積している状態です。体液の蓄積が広範かつ重度になると、体腔にも貯留して胸水・腹水となります。

浮腫は広がりの程度によって、局所性と全身性に分類されます。局所性浮腫は、炎症によるもの(炎症性浮腫)と、静脈やリンパ管の循環障害によるもの(冷性浮腫)とに分けられます。全身性浮腫の多くは冷性浮腫です。

下痢症子牛の輸液療法について

下痢症子牛の輸液療法について

子牛の下痢症は、現場でもよく遭遇する病気の1つです。脱水レベルの判断と症状に合わせた早急な対処が求められます。

脱水レベルの判定の仕方

下痢症子牛の脱水レベルは、主に臨床症状と皮膚つまみテストによって判定されます。

皮膚つまみテストとは、皮膚をつまみ上げてからもとの位置に戻るまでの時間を測定する方法です。脱水が進むと、皮膚は乾燥して弾力性を失うため、もとに戻るまでの時間が長くなります。

脱水率(%) 臨床症状 皮膚つまみテスト(秒)
<5 <2
6 皮膚の弾力性低下、口腔内乾燥、結膜充血 4-6
8 眼球陥凹、沈鬱、上記所見の増悪 6-8
10 口腔・四肢の冷感、起立不能、上記所見の増悪 8-10
12 ショック症状、横臥、上記所見の増悪 12<
12< 昏睡、死亡

脱水率が8%以上と判断した場合は、輸液療法を行います。

輸液量の計算方法

脱水状態の子牛では、次の5つが問題となります。

  1. 循環血漿量の低下
  2. 組織の低酸素化
  3. 細胞外液の細胞内移動
  4. 筋収縮力の低下
  5. 酸-塩基平衡異常

1〜3は、輸液をして循環血漿量の不足を補うことで改善が期待できます。つまり、下痢症子牛の輸液療法では、循環血漿量を補えるだけの輸液量が必要になるということです。

輸液量を計算する際は、一般的に次の式が使われます。

輸液量(L)=欠乏量(L)×安全率(1/2)+維持量(L)

  • 欠乏量(L)=体重(BW)kg×脱水率(%)
  • 安全率:安全率の1/2は臨床診断と血液生化学的検査に基づき、経験的に定められたもの
  • 維持量:維持量(L)は、1日に必要なエネルギー量に比例する。通常、成牛では30mL/kg/日(3%)、子牛では50mL/kg/日(5%)と積算される(子牛は水分代謝回転率が早いため)

この計算式を用いると体重40kgの子牛の場合は、

輸液量(L)=欠乏量[体重40kg×脱水率(8-12%)]×安全率(1/2)+維持量(40kg×5%)
輸液量(3.6-4.4L)=欠乏量(3.2-4.8L)×安全率(1/2)+維持量2L

このようになります。
すなわち、体重40kgで脱水率が8-12%の下痢症子牛には、3.6-4.4Lの輸液が必要となるわけです。

参考:子牛の輸液療法に関する研究

Berchtoldは、子牛の脱水の程度を起立状態によって分類し、さらに眼球陥凹の程度と吸入反射などの臨床所見を加えて輸液量を算出しています。この方法によると、推奨輸液量は軽度脱水で2L、重度脱水で4Lとなっています。

Perez Garciaは、牛の輸液において欠乏量に相当する輸液量(体重比8-12%)を4-6時間で投与することを推奨しています。この場合、50kgの子牛の輸液量は4-6Lということになります。

以上の研究からも分かる通り、下痢症子牛への輸液療法については、獣医師によって考え方が異なる場合があります。厳密に輸液量を算出しなければならない循環器疾患や肺疾患などを除けば、下痢症などで脱水している子牛の輸液量はおおむね4Lと算出されます。

まとめ

牛の体内の水分量は、成牛で体重の約60-70%、子牛で体重の約70-80%となっています。血液量はどの牛も体重の約8%前後となっていますが、尿量や飲水量は年齢・品種・飼養環境によってバラつきが見られます。

牛の体内の水分バランスが乱れると、脱水・貧血・浮腫といった症状があらわれます。特に下痢症子牛では脱水が重度になりやすく、早期の診断・治療が大切です。脱水レベルの判定方法なども参考にしながら、日々の飼養管理に生かしてみてください。