牛の分娩で大切なこと|分娩前後の親牛と新生子牛の管理について

  • 2023年5月4日
  • 農業
  • 380回

牛の分娩は、最も事故が発生しやすいタイミングの1つといっても過言ではありません。近年の急速な品種改良や多頭飼育化により、難産の発生率は徐々に増えています。

この記事では、牛の分娩経過や難産の判断基準、分娩時の親牛と新生子牛の管理について紹介します。「分娩管理の基礎が知りたい」「分娩事故をなくしたい」という人は参考にしてください。

牛の分娩管理

牛の分娩管理

牛の分娩管理で大切なのは、分娩までの流れをよく理解して、なるべく自然な形で産ませることです。

早すぎる助産や大人数での牽引は、母子ともに大きなダメージを与えかねない行為なので注意しなければなりません。

適切な分娩管理をするためにも、まずは牛の分娩経過について理解を深めておきましょう。

牛の分娩経過

牛の分娩は、次のような流れで進みます。

 第1期
(開口期)
産道を形成する時期。子宮頸管が拡張し、胎子を産出する準備をする。お腹の下にいた胎子は回転して分娩姿勢になる。開口期陣痛は3〜6時間持続する。
 第2期
(産出期)
胎子を産出する時期。「第1破水→足胞の出現→第2破水」という流れで進む。足胞出現から1〜2時間以内に胎子を産出する。
 第3期
(後産期)
胎盤を排出する時期。通常は分娩後12時間以内に胎盤が排出される。

基本的には上記の流れで分娩が進んでいきます。

分娩が途中で止まった場合には、難産と判断して介助に入るべきか、あるいは無理な助産をせずに待つべきか、慎重に見極めなければなりません。

難産の判断基準

難産かどうかを判断するときは、次の5つがポイントになります。

【難産と判定するタイミング】

  • 開口期陣痛がはじまってから6時間経過しても破水しない
  • 開口期陣痛がはじまってから4時間経過しても陣痛が強くならない
  • 陣痛は強くなったが2時間経過しても分娩が進まない
  • 第1破水後、1時間経過しても足胞があらわれない
  • 足胞が出現してから2時間経過しても胎子が娩出されない

上記5つに該当する場合は、子宮捻転や胎子失位といった異常が起きている可能性があります。
このような場合には、難産と判断して人間による分娩介助が必要です。

難産を減らすためにできること

牛の難産を減らすためにできることは次の通りです。

  • 体格の小さい牛(体高125cm以下)には種付けしない
  • 早すぎる分娩介助をしない
  • 失位のまま牽引しない
  • 分娩難易度の低い種雄牛を選ぶ
  • 広い分娩スペースを確保する
  • 吊起できる場所で産ませる

特に初産では事故が発生しやすい傾向にあるため、できる限りの対策をしておきましょう。

分娩前後の親牛の管理

分娩前後の親牛の管理

分娩事故をなるべく減らして空胎期間を短くするには、分娩前後の親牛の管理に気をつけなければなりません。

分娩前

分娩が近くなると、親牛の乳房が張ってきたり体温が下がったり、分娩前特有の徴候があらわれます。

分娩徴候のなかでも特に重要なのが、骨盤靭帯(仙座靭帯)の弛緩と尾力の低下です。

分娩の約1日前になると、骨盤靭帯が弛緩して尻尾を振る力がなくなります

骨盤靭帯の弛緩により尾根部にくぼみができて、この深さが前日よりも5mm以上弛緩した場合には、24時間以内に分娩する確率が96.4%になるという報告があります。

分娩後

胎子を産んだあとは、親牛の産道に手を入れて損傷の程度や双子の有無を確認します。
「奥のほうに実はもう1頭…」というケースもたまにあるので、最後まで気を抜かないことが大切です。

長時間の難産でエネルギーを消耗してしまった親牛には、補液をして体力回復を促します。

高泌乳・高齢な乳牛では、乳熱予防として皮下にカルシウム剤を投与するのも効果的です。

(参考:親牛でよくある病気3選

新生子牛の管理

新生子牛の管理

生まれたばかりの子牛は体が弱く、適切な管理をしなければ新生子死につながります。
出生直後の事故を防ぐためにも、次の手順で管理しましょう。

  1. 羊水を吐き出させて呼吸を開始させる
  2. 乾いた清潔な布で新生子牛の体を拭いて乾燥させる
  3. 臍帯がつながっている場合は、新生子牛の臍帯付着部から約5cmのところで切除する
  4. 自力で立ち上がり、初乳を飲むところを目で確認する
  5. 乾燥した清潔な敷料を敷いた場所で飼養する

新生子牛の臍帯部は病原微生物の侵入経路になります。
臍がカラカラに乾くまで(出生直後から3〜5日間)はヨーチン消毒すると臍帯炎予防になるでしょう。

(参考:子牛でよくある病気3選

まとめ

牛の分娩管理では、人為的なミスによる事故が少なくありません。焦って助産を急いだり失位のまま引っ張ったりすると、本来は整復できるはずの難産も整復できなくなってしまいます。まずは牛の力を信じてじっくりと見守り、適切なタイミングでサポートするように心がけましょう。