五感とは、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という5つの感覚のことです。動物が外界の情報を得るために発達させてきた機能であり、動物種によって「鋭い感覚」「鈍い感覚」が異なります。
当然ですが、五感が変われば見える世界も変わります。目の前の動物の気持ちを汲み取るためには、その動物が何をどのように感じているのか、よく理解しておかなければなりません。
この記事では、牛の五感の特徴について詳しく解説していきます。牛と人では「見える世界」がまったく異なるということを理解してもらえたら嬉しいです。
牛の五感と接し方の注意点
牛は人間と同じように視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった五感をもつ動物です。しかし一つひとつの感覚に注目してみると、人間のそれとは大きく異なる点も少なくありません。牛の五感の特徴と、それを踏まえたうえでの「牛にとってやさしい接し方」について解説します。
視覚
牛の眼は顔の横についており、人間と比べるとかなり広い視野をもつのが特徴です。左右の視野を合わせると、人間の視野は約180度といわれていますが、牛の視野は約320度にも達します。牛は、自身の真後ろと鼻先以外はすべてを見渡せるため、近づいてくる外敵に気づきやすいという特徴を持っています。
ただし牛の視力は0.04程度であり、離れたところにある物体の形をはっきりと認識できません。色を見分ける能力も貧弱で、鮮明度やコントラストの区別も苦手です。視野が広いことで多くの視覚情報が脳へと入力されるため、入ってきた情報を処理して焦点を合わせるまでに時間がかかるという特徴もあります。
つまり牛が見ている世界というのは、「広い視界の端々で”何か”が動いているけど、それが何なのかよく分からない」という状況なわけです。普段は穏やかな牛ですが、人間が死角から突然あらわれると、びっくりして跳ねたり後肢で蹴り上げてきたりするのは、こういった背景もあるためです。
聴覚
牛は聴覚が発達している動物で、人間よりも広範囲の音域を聞き取ることができます。人間の最小可聴音(雑音のない環境で聞き取れる最小の音圧レベル)が1,000〜3,000Hzであるのに対して、牛は約8,000Hzだといわれています。さらに牛の耳は前後左右によく動くため、どこからどんな音が聞こえてくるのか正確に認識することも可能です。
しかし牛は聴覚が優れているがゆえに、大きな音は苦手です。継続的に大きな音がする環境では、牛の食欲が低下するという報告もあります。
牛に近づくときは、あえて大声を出す必要はなく、普通のトーンで語りかけるだけでも十分でしょう。
触覚
牛の触覚で特に重要なのが、鼻・口・舌の触覚です。前述したように牛は視力が低いため、触覚を頼りにして物体の形を認識しています。
エサを食べるときには、硬さ・質感・形状を触感によって把握して、食べるかどうかを判断しています。エサの種類をいきなり変えると食欲が落ちるのは、エサの食感が牛の嗜好性に大きく影響しているためです。
味覚
味覚には、甘味・苦味・塩味・苦味・旨味の5種類があります。牛の味覚はまだはっきりとは解明されていませんが、ある程度は5つの味覚を区別できるようです。
牛の味覚に関する行動学的研究によると、甘味・旨味には嗜好を示し、高濃度の塩味・酸味には拒絶反応を示すことが分かっています。さらに細かい風味の違いまで認識しているかどうかは分かりませんが、牛にとってのおいしいエサとは、甘みが強く塩味や酸味を控えめにしたエサだといえるでしょう。
嗅覚
牛の嗅覚はとても敏感で、においから多くの情報を得ています。エサを見つけ出したり、外敵を認知したり、他の牛を識別したり、牛の行動の大半はにおい情報の影響を受けています。
牛の優れた嗅覚は、繁殖生理にも重要です。牛には「鋤鼻器」と呼ばれる器官が存在し、これが発情期に特有のフェロモンを感知するはたらきをしています。
このように、牛同士はにおいによってお互いの状態を把握するため、においは一種のコミュニケーションツールということもできるでしょう。
まとめ:牛の五感に合わせたやさしい接し方を意識しよう
牛は人間と同じように五感をもつ動物です。五感のなかでも聴覚と嗅覚はよく発達しており、牛同士のコミュニケーションにおいても重要な役割を果たしています。
人間の五感とは大きく異なる部分も多いため、牛に近づくときはストレスを与えないように気をつけなければなりません。ぜひ今回の内容をよく復習して、牛にやさしい接し方について考えてみてください。