牛を熱中症から守る3つの対策!生産性を維持するためには予防が必須

  • 2023年4月29日
  • 農業
  • 156回

深刻さを増す夏の猛暑。毎年熱中症で倒れる人がニュースで報道されていますが、酪農畜産の現場でも熱中症による被害が後を絶ちません。

暑さに弱い牛は猛暑の影響を受けやすく、乳量が低下したり肉質が悪くなったり、経済的な損失につながります

被害を最小限に抑えるためには、熱中症のメカニズムを理解して、徹底的に予防することが大切です。今回は、牛を熱中症から守るための3つの対策について紹介します。

牛の熱中症のメカニズム

牛の熱中症のメカニズム

牛は人間と同じように体温を一定の範囲内で維持する恒温動物です。脳の視床下部にある体温調節中枢により、常に体温を一定に保とうとしています。

牛が活動するのに最も適した気温の範囲を「至適温度」といいます。牛は至適温度の範囲内では快適に過ごすことができますが、気温が高くなりすぎると体温維持機能が限界を迎え、その結果として熱中症になってしまうというわけです。

熱中症の症状

牛の体温の正常値は、成牛で38.0〜39.0度、子牛で38.5〜39.5度くらいですが、熱中症の牛では40度を超える場合がほとんどです。体温の上昇により活動量が低下したりホルモンバランスが崩れたりするため、食欲不振・代謝異常・乳量低下・受胎率低下といった症状があらわれます。

あえぎ呼吸(panting)と呼ばれる浅く速い呼吸も熱中症に特徴的な症状の1つです。牛では、気温が20〜25度を超えたあたりからあえぎ呼吸が見られます。正常な呼吸数は、成牛で20〜30回/分、子牛で24〜36回/分程度ですが、あえぎ呼吸の場合は150〜200回/分まで増加します。

熱中症の治療

熱中症の治療は大きく分けると2つあります。

1つ目は、脱水の改善です。
牛は熱中症になると、汗をかいたり涎を垂らしたり呼吸数を増やしたりして、水分を蒸発させることで体内の熱を外へ出そうとします。この状態が長引くと、体内から多くの水分と電解質が失われ、脱水状態に陥ります。脱水症状が重度の牛では、血管からの補液により循環血液量を増やすという治療が必要です。

2つ目は、体温を下げることです。
実際の現場では、ホースで冷水をガンガンかけたり業務用扇風機を近くに置いたりして牛の体を全力で冷やしています。しかし体の大きな牛では表面温度が少し下がる程度にすぎず、この方法で深部体温まで下げるのは根気がいる作業になります。

牛の熱中症対策3つ

牛の熱中症対策3つ

牛の熱中症対策として有効なのが次の3つです。

  • 冷水給与
  • 大型ファン
  • 断熱シート

ポイントは「深部体温を下げること」と「牛舎内の温度を下げること」の2つです。それぞれの対策について詳しく解説します。

冷水給与

牛の体内では、第一胃内での発酵や代謝により大量の熱が生み出されています。猛暑によるストレスは第一胃における発酵を助長し、さらに体温が上昇するという悪循環が発生します。

この問題を解決するためには、冷たい水をガブガブ飲ませて、第一胃の温度を下げるというのが最も手っ取り早い方法です。

第一胃内の発酵はエサを食べたあとに活発になるため、夏場は比較的涼しい夜間にエサを与えるというのも1つの方法でしょう。

大型ファン

牛舎に大型ファンを設置するのも効果的な方法です。大型ファンにより強制的に風通しをよくすることで、牛舎内にこもった熱気を外へと放出することができます。牛の体に風が当たると、気化熱による体感温度の低減も期待できるでしょう。ただし牛舎に大型ファンを設置するとなると工事費込みで数百万円のコストがかかるため、費用対効果などをよく検討しなければなりません。

大型ファンと比べると効果は劣りますが、業務用扇風機を何台か設置するのもおすすめです。

断熱シート

「低コストで熱中症対策をしたい」という場合には、断熱シートを利用してみるのもいいでしょう。ビスや釘を用いて牛舎の屋根に断熱シートを張りめぐらせると輻射熱をカットできるため、熱中症による被害を抑えられます。大掛かりな工事も不要でコスパのいい方法なので、やってみる価値はあると思いますよ。

ただし市販の断熱シートだとサイズが小さすぎるため、業務用の断熱シートを購入しましょう。

まとめ:牛舎の熱中症は予防が大事!

牛が熱中症になったときは、冷水をガブガブ飲ませたりホースで水をかけたりして、まずは牛の体温を下げることが大切です。重度の脱水状態にある場合には補液療法も併用しましょう。ただし、これらは一時的な対症療法にすぎないため、熱中症から牛を守るためには牛舎内の環境を整えなければなりません。業務用扇風機を何台か設置したり、牛舎の屋根に断熱シートを張りめぐらせたり、まずは低コストでできる対策からはじめていきましょう。