出生直後から哺乳期にかけての子牛は、さまざまな病気にかかりがちです。体が十分に発達しておらず免疫力も弱いため、慎重な管理が求められます。
この記事では、子牛でよくある病気の原因・症状・治療法・予防法について解説します。健康な子牛を育てるためにも、ぜひ参考にしてください。
子牛でよくある病気3選
- 下痢症
- 肺炎
- 臍炎
いずれも子牛の時期によく見られる病気で、実際の臨床現場でも子牛の診療の8割以上は上記3つのどれかです。それぞれの原因・症状・治療法・予防法について理解しておきましょう。
下痢症
下痢症は、子牛の病気のなかでも特に重症化しやすいものの1つです。
農場経営における被害率も高いため、しっかりと対策する必要があります。
主な原因としては、以下の3つが考えられます。
- 初乳摂取不足による免疫移行不全
- 多様な病原微生物の曝露
- 不適切な飼育環境や飼養管理
子牛の下痢症における代表的な病原微生物と好発時期は次のとおりです。
病原微生物 | 好発時期(日齢) |
---|---|
腸管毒素原性大腸菌 | 1〜14 |
サルモネラ | 7〜28 |
ロタウイルス | 4〜14 |
クリプトスポリジウム | 7〜21 |
コクシジウム | 90〜 |
腸管毒素原性大腸菌:2週齢以内の子牛で好発します。一般的に「白痢」と呼ばれる灰白色の水様〜泥状下痢が特徴で、5日齢以内の子牛では死亡率が高い傾向にあります。
サルモネラ:6か月齢以内の子牛で流行的に発生します。1〜4週齢の子牛では死亡率が高い病気です。
ロタウイルス:生後4〜14日齢の子牛で発生が多い病原微生物です。発病初期の糞便中には大量のウイルスが含まれるため、感染拡大に注意しなければなりません。
クリプトスポリジウム:1〜3週齢の子牛で好発します。
コクシジウム:3〜18か月齢の子牛で感受性が高い病原微生物です。慢性化すると発育不良につながるため、特に肉牛では被害が大きい病原微生物です。
下痢症の症状
- 下痢
- 血便
- 沈うつ
- 口腔内や四肢の冷感
- 吸入反射の欠如
- 歩様蹌踉
- 起立不能
- 眼球陥凹
主な症状は上記の通りですが、原因となる病原微生物によって細かい症状は異なります。
下痢症の治療法
感染性の下痢症が疑われる場合は、抗菌性物質(抗生剤)の投与をおこないます。細菌性下痢症またはコクシジウム症の場合に有効です。
脱水が見られる場合には、その程度に合わせて治療法を選択します。脱水率5%以下の子牛には断乳して経口補液をおこない、脱水率8%以上の子牛には輸液療法をおこなうのが一般的です。
脱水レベルの判定方法は、以下の記事で解説しています。
重度の下痢症子牛では、体温が低下している場合も少なくありません。毛布や湯たんぽで子牛の体を温めてあげるのも大事な治療法の1つです。
感染拡大を抑えるためにも、病気が治るまで子牛の移動は控えることをおすすめします。
下痢症の予防法
乾燥した敷料を使用して、飼育環境を清潔に保ちましょう。計画的なワクチン接種も有効です。
肺炎
子牛の肺炎は、完治するまでに時間がかかり、慢性化しやすい病気です。
病原微生物の感染による感染性肺炎と、異物の嚥下または誤嚥による異物性肺炎は、症状が急にあらわれることから「急性肺炎」と呼ばれます。
急性肺炎の治療が長引いたり、畜舎内の空気汚染物質による曝露が続いたりすると「慢性肺炎」と呼ばれる状態になります。
いずれにしても、複数の病原微生物が混合感染している場合がほとんどです。
肺炎の症状
- 急性肺炎:発熱、咳、鼻汁、食欲不振、元気消失
- 慢性肺炎:咳、食欲不振、削痩、被毛粗剛、喘鳴
肺炎の症状は、発生原因や臨床経過により異なります。重度の肺炎では、呻吟を伴う呼吸困難、呼吸促迫、横臥といった症状も見られます。
肺炎の治療法
感染性肺炎は、抗菌性物質による治療が有効です。
子牛の肺炎では、複数の病原微生物が混合感染している症例も多いため、同じ治療を3〜5日続けても症状が改善されない場合は、作用機序が異なる薬剤に変える必要があるでしょう。
突発的な発熱や激しい咳が見られる場合には、抗炎症剤の投与により症状緩和が期待できます。しかし、抗炎症剤の投与は対症療法にすぎないため、根本的な原因を解決しなければ再発する可能性があります。
肺炎の子牛に輸液をおこなう場合には、投与速度に注意しなければなりません。投与速度が速すぎると肺水腫になる恐れもあるため、なるべくゆっくりと点滴する必要があります。
肺炎の予防法
子牛の肺炎を予防するには、乾燥した敷料を使用して飼育環境を清潔に保つのが大事です。適度に換気して畜舎内の空気汚染を予防することも重要なポイントになります。計画的なワクチン接種も有効です。
臍炎
臍炎とは、臍部に生じた炎症の総称です。子牛の臍部には、臍動脈・臍静脈・尿膜管といった構造があり、この部分に炎症が起きるとさまざまな障害があらわれます。
臍炎の症状
臍動脈炎・尿膜管炎は、膀胱炎の原因になります。膀胱炎になると排尿障害が見られることも少なくありません。
臍静脈炎は、肝膿瘍の原因になります。肝膿瘍が進行して敗血症になると予後不良となってしまいます。
臍炎の治療法
発病初期で炎症や化膿巣が限局している場合は、臍部の消毒や、抗菌性物質の全身投与により、症状が改善する場合も多いです。
しかし膿瘍が大きい場合には排膿・洗浄・ドレナージ、膿瘍が深部にまで及んでいる場合には外科的切除といった治療法も必要になります。
臍炎の予防法
出生後、臍帯が完全に乾燥するまでは朝夕2回のヨーチン消毒を続けましょう。飼育環境を清潔に保つのも大事です。
まとめ
子牛でよくある病気の多くは、完治するまでに時間がかかる傾向にあります。慢性化すると発育に悪影響を及ぼすため、早期発見・早期治療が大切です。
子牛の健康を維持するためには、予防が何より大事です。清潔な飼育環境を維持しつつ、適切な飼養管理をおこないましょう。