農産物をどれだけ効率よく生産できているかを表す「農業生産性」。日本の農業生産性は、海外の国と比較して低い傾向にあり、生産性向上が課題となっています。
本記事では、農業生産性の概要や、日本の農業生産性が低い理由、農業生産性向上に向けた取り組み事例・工夫について紹介します。
「生産性を高めて利益を出したい」「時間的にも金銭的にも余裕が欲しい」という農家の方は、ぜひ参考にしてください。
農業生産性とは?簡単に説明します
農業生産性とは、投入された資源(土地・労働力・資本など)に対してどれだけ効率良く農産物を生産できるかを示す指標です。
具体的には、「単位面積あたりの作物の収量」「労働時間あたりの生産量」「投資された資本に対する収益」などで測定されます。
「農業生産性が高い」とは、少ない資源で多くの農産物を生産できる状態を表します。持続可能な農業の重要な要素として、注目されている指標です。
土地生産性との違い
土地生産性とは、土地一単位あたりで、どれだけの量を生産できるかを表す指標です。一定面積(例えば1ヘクタール)の土地から得られる農産物の量や質を測定することで、その土地の生産性を評価します。
土地生産性は、以下の条件により左右されます。
- 土壌の肥沃さ
- 水利条件
- 気候
- 農法の技術レベル
- 肥料の使用量
高い土地生産性を維持することは、食糧危機の解決や持続可能な農業に貢献する重要な取り組みです。
食料や環境に関してさまざまな課題が叫ばれる現代では、農業政策や農地改善により、高い土地生産性を維持することが求められています。
労働生産性との違い
労働生産性とは、投入した労働力に対して、どれだけの生産物やサービスが生み出されるかを表す指標です。労働者1人あたりの生産量や売上高などで表され、労働時間や労働者数を基に計算されます。
高い労働生産性は、少ない労働力で多くの成果を得られることを意味します。労働生産性を向上させるためには、以下の取り組みが重要です。
- 技術革新
- 効率的な作業方法の導入
- 従業員のスキルアップ
- 作業環境の改善
労働生産性は、農業以外の場面でもよく使われる指標です。状況により意味合いは異なるものの、教育や研究開発への投資に熱心な国では、労働生産性が高い傾向にあります。
農業生産性の国際比較ランキング
農業生産性を測る際は、何を基準にするかによって計算結果が変わります。利用する統計データにより誤差が生じてしまうため、ここでは農業の総生産額についての国際比較ランキングをご紹介します。
国名 | 概要 |
---|---|
中国 | 2020年の農業総生産額は、約225兆円。世界の穀物の約1/4を生産し、米・とうもろこし・小麦の生産量も多い。 |
インド | 2020年の農業総生産額は、約58兆円。世界最大の乳製品・豆類の生産国である。香辛料・米・小麦・野菜の生産量も多い。 |
アメリカ | 2020年の農業総生産額は、約44兆円。とうもろこし・大豆の生産量が多い。品種改良、効率的な生産性、機械化、土壌改良への取り組みも盛ん。 |
ブラジル | 2020年の農業総生産額は、約11兆円。サトウキビの生産量が多く、バイオ燃料の原料として利用されている。 |
※2020年のデータを参照
上記のデータは農業総生産額に基づいており、生産性という観点からは直接的な指標ではありません。
しかし、農業生産性は、技術革新・土壌管理・機械化・自動化などによる効率化の産物です。
農業総生産額ランキングの上位にランクインすることは、高い生産性と技術革新の結果である可能性が高いといえるでしょう。
日本の農業生産性が低い理由とは
日本の農業生産性は、世界的な規模で見ると、比較的低いとされています。その理由は、主に以下の通りです。
- 小規模経営が多い
- 高齢化と労働力不足
- 地形的な制約
- 政策と規制
- 技術革新の遅れ
小規模経営が多い
日本の農業は、小規模な家族経営が主流であり、大規模な機械化や効率的な生産方法の導入を行う農家は限られています。
資金や労働力に乏しい小規模農家では、農業生産性の向上のための取り組みに着手する余裕がないのが現状です。
高齢化と労働力不足
日本の農業従事者は高齢化が進んでおり、若手の後継者が不足しています。
高齢化に伴い作業効率は低下し、新しい技術の導入や革新的な取り組みが進みにくい状況が続いています。
地形的な制約
日本の農地は山間部に位置することが多く、平坦で大規模な耕作地が少ないのが特徴です。
このため、機械化や集約化が難しく、地形的な問題で農業生産性の向上に制約があります。
政策と規制
日本の政策や規制が、農場の大規模化や効率化の障壁となる場合があります。
例えば、農地法の規制により、農地の有効利用や農業経営の規模拡大が制限されるなど。
技術革新の遅れ
他国に比べて、日本の農業では最新技術の導入が遅れがちです。デジタル技術やAI、ロボティクスの活用が進んでいる国と比較すると、その差は明らかです。
ただし、最近では「スマート農業」への取り組みが進んでおり、農業領域でもAI・IoT・ロボット技術を活用した農業の効率化が進められています。
日本の農産物は、品質の高さや安全性においては世界的に高い評価を受けており、生産性さえ改善できれば世界でも通用する農業大国へと進化できる可能性があります。
農業の生産性向上への取り組み事例
農業の生産性向上への取り組み事例を紹介します。
取り組み事例1:精密農業
精密農業とは、GPS技術・衛星画像・ドローン・センサーなどを活用して農地の詳細な情報を収集し、それに基づいて肥料や水の最適な配分、作物の健康状態の監視を行う方法です。
農業生産の各プロセスを精密に管理することで、資源の無駄遣い削減、収量の最大化につながります。
例えば、ドローンを使用して農産物の成長状況を監視し、必要な箇所にのみ肥料や水を適切に供給する方法があげられます。コストカットしつつ、農産物の効率的な成長を促せるため、農場全体の生産性が向上するでしょう。
取り組み事例2:垂直農業
垂直農業とは、多層式の室内栽培システムを用いて、土地の利用効率を高める方法です。LEDライトや温度管理、水耕栽培などの技術を組み合わせることで、限られたスペースでも高い生産性を維持できます。
垂直農業は、都市部での取り組み事例が増えており、農産物の輸送コスト削減や鮮度維持にも大きく貢献。外部環境の影響を受けにくいため、1年を通して生産量が安定するというメリットもあります。
取り組み事例3:遺伝子編集技術
遺伝子編集技術を用いた農産物の研究開発は、農業生産性の向上に欠かせない要素です。CRISPR-Cas9などの技術を使用して、農産物の耐病性、耐乾性、栄養価の向上などが実現しています。
遺伝子編集技術の応用により、農薬の使用量を減らして環境への影響を低減しつつ、収穫量を増加させることが可能です。
特定の気候や土壌条件に適応する農産物の開発も進められているため、地形的な制約が多い日本では重要な取り組みといえるでしょう。
農家の生産性を向上させる工夫の一例を紹介
ここからは、農家の生産性を向上させる工夫を3つ紹介します。
作物ローテーションと多様な作物の栽培
同じ作物を続けて栽培すると、特定の栄養素が土壌から枯渇し、病害虫が増加するリスクがあります。作物ローテーション(作物の輪作)は、土壌の栄養バランスを保ち、病害虫のリスクを減らす効果がある栽培方法です。
複数の作物を栽培することでリスク分散ができるため、市場価格の変動に強くなるというメリットもあります。
ドリップ灌漑システムの導入
ドリップ灌漑システムとは、水を作物の根元に直接滴下する方法です。水の使用効率が高く、水不足地域での農業で有効な方法として知られています。
ドリップ灌漑システムの導入により、水や肥料の無駄遣い削減、作物の生育環境改善が実現します。比較的低コストで導入可能なシステムもあるので、家族経営の小規模農家にもおすすめの方法です。
有機肥料と堆肥の使用
化学肥料に頼るのではなく、有機肥料や堆肥を使用することで、農業生産性の向上が期待できます。土壌の健康を維持し、長期的な土壌肥沃性を保つことができます。
有機肥料は、土壌の水分保持能力を向上させ、栄養素のバランスを良好に保つ役割を果たします。自家製堆肥の利用により、肥料コストを削減できるのもメリットの1つです。
農業生産性向上ならAgriMemo(アグリメモ)
農業生産性とは、投入した資源に対して、どれだけ多くの農産物を得られたかを示す指標です。日本の農業生産性は海外と比較して低い傾向にあり、生産性向上が課題となっています。
AgriMemoでは、農業生産性を向上させるためのコンサルティングサービスを提供しています。計画を立てるだけでなく、実際の現場に浸透させるまで丁寧に伴走支援していくので、お気軽にお問い合わせください。