乳牛を管理する上で、泌乳期や乾乳期への理解は重要です。乳量が増えたり減ったりするメカニズムについて理解しておくと、適切なエサの管理ができるようになり、病気の予防にもつながります。逆に泌乳ステージに対する理解が不十分だと、栄養状態のコントロールに不具合が生じて生産性が低下しかねません。
この記事では、泌乳期・乾乳期といった言葉の意味や、泌乳ステージごとのエサの管理について紹介します。ぜひ最後まで読んで飼養管理の参考にしてください。
乳汁が分泌されるまでのしくみ
乳汁は次のようなプロセスで分泌されます。
- 子牛の吸乳行動、搾乳時の洗浄・マッサージにより乳房が刺激される
- 刺激は視床下部に伝達され、下垂体後葉からオキシトシンが分泌される
- オキシトシンの作用により、乳腺胞や乳小管の筋上皮細胞が収縮する
- 乳汁が乳管洞へと押し出される
オキシトシンは「射乳ホルモン」とも呼ばれ、泌乳のプロセスにおいて重要な役割を果たしています。
乳房が刺激されてからオキシトシンが作用するまでの時間は30秒前後で、オキシトシンの作用は2〜10分ほど持続すると考えられています。
泌乳期・乾乳期とは?
泌乳期とは、乳牛が分娩してから乳を生産し続ける期間のことです。泌乳期の長さは約10か月程度で、初期のほうが乳量が多く、徐々に減少していくのが一般的です。
乾乳期とは、泌乳期の終わりから次の分娩までの間の休息期間のことです。乾乳期の長さは約2か月程度で、乳牛はこの期間中に乳腺組織を回復したり、次の分娩に備えてエネルギーを蓄えたりしています。
乳牛の1日あたりの乳量はどれくらい?
代表的な乳用種であるホルスタイン種の場合、1日あたり約22-32Lの乳を生産するのが一般的です。しかし一口に乳牛といっても、品種・血統・飼養環境・栄養状態により乳量は大きく変わります。
最近では遺伝子改良が進み「スーパーカウ」と呼ばれる高泌乳の牛も増えてきました。血統により差はあるものの、スーパーカウの中には1日で40L以上の乳を生産する牛も少なくありません。
乳牛の泌乳ステージとエサの管理について
泌乳量や栄養状態に合わせて乳期を分類したものを「泌乳ステージ」といいます。
泌乳ステージ | 生理的変化 | ※目標BCS |
---|---|---|
泌乳前期 (分娩〜分娩後50日) | 乳量増加、体重減少 | 2.75〜3.0 |
泌乳中期 (分娩後50〜200日) | 乳量は徐々に減少、体重は徐々に増加 | 3.0 |
泌乳後期 (分娩後200〜300日) | 乳量減少、体重増加 | 3.0〜3.5 |
乾乳前期 (分娩前60〜21日) | 乳腺組織や第一胃の機能回復 | 3.5〜3.75 |
乾乳後期 (分娩前21日〜分娩) | 泌乳開始の準備期間 | 3.5〜3.75 |
※BCS(ボディコンディションスコア)とは、牛の体脂肪の蓄積程度を数値化したもの(参考記事:牛の「痩せすぎ」「太りすぎ」を見極めるには?BCSの評価方法を解説!)
乳牛のエサを管理する際に重要となるのが「フェーズ・フィーディング」という概念です。フェーズ・フィーディングとは、泌乳ステージごとの特性に合わせて栄養管理をするという考え方です。
泌乳ステージの分類については細かくするとキリがないので、今回は一般的に知られている5段階の分類法にもとづいて紹介します。
泌乳前期(分娩〜分娩後50日)
泌乳前期には乳量が急激に増加し、分娩後約5週でピークに達します。乳量の増加に伴いエネルギー消費量も増えていくため、泌乳前期はエネルギー不足に陥りやすい時期になります。
エネルギーが不足すると体脂肪が動員されるため、牛の体重は減少していきます。乳熱・ケトーシス・第四胃変位・乳房炎といった周産期疾病にもつながりやすいため、良質な粗飼料を給与して乾物摂取量を高めることが重要です。
泌乳中期(分娩後50〜200日)
泌乳中期になると、乳量は徐々に減少していきます。乳量減少によりエネルギー消費量が減る一方で乾物摂取量はピークに達するため、全体的なエネルギーバランスがプラスに転じて牛の体重は徐々に増加していきます。
泌乳中期のエサの管理では、乳量をなるべく落とさないような工夫が必要です。1日分のエサを小分けにして給餌回数を増やしたり、乳成分の値を見て不足している部分を補うような組成にしたりすると生産性が高まるでしょう。
泌乳後期(分娩後200〜300日)
泌乳後期には、乳量がさらに減少して体重は増加していきます。エネルギー消費量の減少により肥満になりやすい時期なので、粗飼料を主体としたエサに切り替えることが重要です。
乾乳前期(分娩前60〜21日)
分娩予定日の2か月前になると、搾乳をやめて乾乳期に入ります。乾乳期は、乳腺組織を回復したりエネルギーを蓄えたりして、次の分娩に備える重要な時期です。
乾乳期のエサの管理では、周産期疾病の予防を目的とした給与を心がけなければなりません。乾草は体重の約0.5%、カルシウムは40〜50g/日、リンは30〜35g/日と、給与量を厳密に管理することで、周産期疾病の予防につながります。
乾乳後期(分娩前21日〜分娩)
分娩予定日の3週間前からは、乾乳後期に入ります。分娩に向けて万全の体制を整える最終段階です。
乾乳後期には、濃厚飼料を徐々に増やすことで泌乳期用のエサへとスムーズに移行できるような飼養管理が重要になります。飼料中の陽イオンを減らして陰イオンを増やすことで、分娩後の低カルシウム血症を予防できるという効果も期待できます。
まとめ
泌乳期とは分娩後約10か月間の乳を生産し続ける期間のことで、乾乳期とは分娩前約2か月間の乳を生産しない期間のことです。泌乳期の開始から乾乳期の終了までを複数の機関に分類したものを泌乳ステージといい、泌乳ステージにもとづいた飼養管理をフェーズ・フィーディングといいます。
乳の生産効率を高めつつ疾病を防ぐためには、乳期ごとのエサの量や組成を細かく調整していかなければなりません。乳牛の生理的変化に合わせたエサの管理を心がけましょう。