牛の飼い方にはいくつか種類が存在し、それぞれにメリット・デメリットがあります。相性の悪い飼い方をすると、必要以上に経費がかかったり労力が増えたりするため注意しなければなりません。
この記事では、繋ぎ飼い・放し飼い・放牧という3つの飼い方の違いについて紹介します。メリット・デメリットを理解すると、効率のよい農場経営につながります。
繋ぎ飼い・放し飼い・放牧の違いとは
牛の飼い方には、飼育頭数や飼育目的によっていくつか種類があります。代表的な飼い方は、次のとおりです。
区分 | 繋ぎ飼い | 放し飼い |
---|---|---|
例 | タイストール スタンチョン |
フリーストール フリーバーン |
給餌方法 | 分離給与 | TMR |
メリット | 個体ごとに管理しやすい | 規模を拡大しやすい |
デメリット | 手間がかかる | 個体ごとの管理が難しい |
一般的には、乳牛では繋ぎ飼いが多く、肉牛では放し飼いが多い傾向にあります。それぞれの飼い方の特徴やメリット・デメリットについて解説します。
繋ぎ飼いの種類と特徴
繋ぎ飼いとは、牛を一定の場所に固定して飼養する方法です。主に酪農の現場で見られる飼い方で、個体ごとに管理しやすいのが最大のメリットです。
繋ぎ飼い牛舎では、粗飼料と濃厚飼料を1日数回に分けて給与する「分離給与」が基本となります。
管理に手間がかかる点は否めませんが、牛の健康状態に合わせてエサの量を調整しやすいため、それぞれの個体ごとに最適な飼料設計ができるのは大きな魅力です。
しかし、繋ぎ飼い牛舎では時間帯によってエサの栄養組成が変わるため、第一胃内の環境が不安定になりやすいというデメリットもあります。
デメリットを解消するために、近年は繋ぎ飼い牛舎でもTMR給与に切り替える農家も増えてきました。エサをTMRにすることで、ルーメンアシドーシのを予防効果が期待できるためです。
繋ぎ飼いには「タイストール」「スタンチョン」という方法があります。
タイストール
タイストールとは、牛につけた首輪をロープやチェーンを使って繋ぎ止めておく方法です。繋ぎ飼い牛舎の多くは、タイストールを採用しています。
- エサや水の量をコントロールしやすい
- 牛の異変にいち早く気づける
- 感染症の伝播リスクを軽減できる
- 移動は制限されるものの、ある程度の動きは可能
- 管理するのに手間がかかる
牛は首輪で繋がれているものの、ある程度は余裕があるため、首を伸ばして隣の牛のエサまで食べてしまうことがよくあります。
家族経営の酪農家では、タイストールを採用するところが多いです。
スタンチョン
スタンチョンとは、牛の首を2本の棒状の「首かせ」ではさみ、固定しておく方法です。
- エサや水の量を細かく調整できる
- 牛の異変にいち早く気づける
- 感染症の伝播リスクを軽減できる
- 牛の動きが制限される
- 管理するのに手間がかかる
スタンチョンの場合は牛の動きが制限されるため、正確な飼養管理が可能となります。
放し飼いの種類と特徴
放し飼いとは、広い区画の中で牛を解放する飼養方法です。主に畜産の現場や大規模な酪農場で見られる飼い方で、牛の管理を省力化しやすい点が最大のメリットです。
放し飼い牛舎では、粗飼料・濃厚飼料・各種添加物のすべてを混ぜた完全混合飼料(TMR:total mixed ration)の不断給与が行われます。
成分組成が同じエサを、いつでも自由に食べられる状態にあるため、第一胃内の環境が安定しやすいのが特徴です。
しかし、放し飼い牛舎では個体ごとの管理が難しくなるというデメリットもあります。病気やケガの発見が遅れると、治療が長引く恐れもあるため、定期的に牛の様子を観察することが大事です。
放し飼いには「フリーストール」「フリーバーン」という方法があります。
フリーストール
フリーストールとは、牛が寝るベッドが一頭ごとに仕切られている放し飼い方法です。
- 牛が自由に動ける
- ストレスや運動不足の解消になる
- 少ない労働力で多くの牛を飼養できる
- 感染症の伝播リスクが高い
- 個別の管理が難しい
個々の牛の世話にかける労力が削減されるため、規模を拡大しやすい傾向にあります。
フリーバーン
フリーバーンとは、牛が寝るベッドに仕切りがなく、自由に寝ることができる状態の放し飼い方法です。
- 牛が自由に動ける
- ストレスや運動不足の解消になる
- 少ない労働力で多くの牛を飼養できる
- 感染症の伝播リスクが高い
- 個別の管理が難しい
フリーストールとフリーバーンの違いは、「牛の寝床が仕切られているかどうか」という点です。
牛が自由に動き回ったり、好きなタイミングでエサや水を摂取できる点は共通しています。
放牧の特徴
放牧とは、家畜を草地に放して自由に採食・飲水させる飼い方です。
全国各地に公共牧場が作られるようになったのは、次のような背景があるためです。
- 酪農畜産物の需要増加
- 農場の規模拡大
- 酪農畜産家の経営安定化
これらを目的として、全国に公共牧場が作られました。
公共牧場は、昭和55年(1980年)には1,179ヵ所まで増加しましたが、預託頭数の減少により令和元年度(2019年度)には688ヵ所まで減少しています。
参考:農林水産省「公共牧場・放牧をめぐる情勢」
しかし、近年のエサ代の高騰や、酪農畜産業界における人手不足の影響により、放牧が再び注目を集めています。
放牧は、舎飼いと違って次のような特徴があるためです。
- 未使用の土地を有効活用できる
- 燃料費、資材費などの経費を削減できる
- 排泄物処理の費用や労力が不要になる
- 公共牧場の利用期間は、他の仕事に注力できる
- 生草の自由採食は育成牛のルーメン発達を促す
- 放牧地を歩き回ることで、筋肉・骨格・心肺機能が発達する
- アニマルウェルフェアの観点からも利点がある
高齢化や後継者不足で将来が懸念される酪農畜産業界において、放牧は重要な選択肢の1つです。
牛の飼い方に関するよくある質問
乳牛と肉牛で飼い方に違いはある?
牛の飼い方の違いは、農家ごとの考え方の違いによる部分が大きく、乳牛か肉牛かはそれほど重要ではありません。
しかし一般的には、乳牛では繋ぎ飼いが多く、肉牛では放し飼いが多い傾向にあります。
牛の飼育方法と環境問題の関係は?
家畜の排泄物が河川に流出すると、水質汚濁を招く恐れがあります。
牛の糞尿は適切な方法で処理して、河川や地下水への流出を防ぐことが大切です。
まとめ:繋ぎ飼い・放し飼い・放牧の違いを理解しよう
牛の飼い方は、繋ぎ飼い・放し飼い・放牧という3つに分けられます。
繋ぎ飼いは個体管理が容易であるものの管理に手間がかかるという特徴が、放し飼いは省力化しやすいものの個別の管理が難しいという特徴があります。
放牧は、人手不足に悩む農場が多いなかで注目を集めている飼い方です。
それぞれの違いやメリット・デメリットを理解して、効率のよい農場経営を目指しましょう。