輸血は、実際の臨床現場でもよく行われる治療法の1つです。重度の貧血状態にある牛や、治療を続けても改善がみられない牛に対して輸血を行うことで、一定の効果が期待できます。しかし、輸血のやり方を間違えると牛の生命に関わるリスクもあるため、慎重に判断しなければなりません。
そこで今回は、牛の輸血のやり方について、順を追って詳しく解説します。それぞれのステップごとに注意すべきポイントもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
輸血のやり方
牛に輸血をする際は、次の手順で行います。
- 供血牛から採血する
- 輸血をする
- 経過観察
各ステップにおける手順を詳しく解説していきます。
1. 供血牛から採血する
- 500mlの7%重曹注ボトルにインジェクターをつける
- 空気を完全に抜き、中身の重曹を450mlほど捨てる
- 重曹の中にヘパリン5000単位と水性デキサメサゾン1mlを入れる
- 供血牛の頸静脈をしっかりと駆血しながら採血する
- 450mlほどたまったらインジェクターを抜いて終了
輸血に使うボトルは必ずしも7%重曹注でなくても問題ありません。生食やリンゲル液のボトルでもOKです。「重曹を捨てるのがもったいない」と感じる場合は、供血牛に450mlほど投与してから採血するのも選択肢の1つです。
抗凝固剤はヘパリン以外でも問題ないかと思います。私はショック防止のために水性デキサメサゾンを1〜2ml入れていましたが、文献によっては必要ないとされていることも多いので、牛の状態を見ながら判断してください。
供血牛から採血する際は、しっかりと駆血した状態を維持したほうが短時間で血液が集まります。供血牛を決める際は、健康状態が良好な牛を選びましょう。
2. 輸血をする
- 最初の10分間は「1ml/100kg/min」の速度で投与しながら、症状に異変が起きないか観察する
- 異常がなければ「10ml/kg/hr」の速度で投与する
- 20分くらいは異変が起きないか観察する
1回あたりの輸血量は、最大でも全血液量の10〜20%程度だといわれています。大量出血の場合には、血液喪失量の約30%を投与すると骨髄反応があらわれると考えられています。
しかし実際の臨床現場では「成牛で1000ml、子牛で500ml」程度とするケースがほとんどです。
3. 経過観察
輸血をしていると、まれにアナフィラキシー反応がみられる場合があります。輸血をはじめてから20分以内に症状があらわれるため、この間はじっくりと経過観察する必要があります。
アナフィラキシー反応とは、過剰なアレルギー反応のことです。主な症状としては、振戦・呼吸促迫・眼球振盪・虚脱・ショックなどがあげられます。
ショック状態になると生命に関わる場合もあるため、すぐに輸血を中止しなければなりません。
●アナフィラキシー反応への対処法
- すぐに輸血を中止する
- 電解質補液を行う
- 必要に応じて抗炎症剤を投与する
アナフィラキシー反応がみられた場合には、エピネフリン(アドレナリン)の投与が有効です。エピネフリンには、気管支拡張・心拍出量増加・血圧上昇といった作用があり、全身のショック症状を改善する効果が期待できます。
輸血の副作用が軽い場合は、水性デキサメサゾンの投与も効果的です。水性デキサメサゾンの投与により、抗炎症作用・エピネフリンの効果増強作用が期待できます。
牛に輸血をするのはどんなとき?
実際の臨床現場では、下記のような場合に輸血を行うことが多いです。
- 子牛の難治性の下痢や肺炎
- 虚弱子牛症候群
- 分娩・手術時の大量出血
- 潰瘍による持続的出血
- ピロプラズマ症
輸血が必要になる牛は「重度の貧血」になっている場合がほとんどです。結膜や膣粘膜が真っ白、血液検査でヘマトクリット値が10%台、治療を続けるも改善がみられない。このような症例に遭遇したときは、輸血をしてみる価値があるかもしれません。
まとめ
牛に輸血をするときは、採血・輸血・経過観察と、3ステップに分けて手順や注意点を整理しておく必要があります。成功すれば効果が目に見えて分かる治療法なので、常に選択肢の1つとして持っておきたいところです。