親牛の病気は牛乳や牛肉の生産性にも悪影響をおよぼすため、早期発見・早期治療が大切です。
この記事では、親牛でよくある3つの病気の原因・症状・治療法・予防法について解説します。
親牛でよくある病気3選
- 乳熱
- 第四胃変位
- 乳房炎
いずれも親牛でよくみられる病気で、発症すると大きな経済的損失をもたらします。一つひとつの特徴をよく理解して、徹底的に対策しましょう。
乳熱
乳熱とは、分娩後の血中Ca濃度の低下により、食欲不振や後肢のふらつきといった症状があらわれる病気です。
分娩後の乳牛は毎日20〜30Lほど搾乳されるため、体内のCaが牛乳とともに大量に排出されてしまいます。
牛の体内では骨からCaを動員したり腸管からCaを吸収したりして血中Ca濃度を保とうとしますが、吸収が間に合わないと低カルシウム血症に陥るわけです。
Caは筋肉や消化管を正常に機能させるために欠かせない物質であり、これが不足するとさまざまな症状があらわれます。
乳熱の症状
乳熱の症状はCaの不足具合によって変わります。
Caの不足具合 (血中濃度) |
主な症状 |
---|---|
軽度 (6.5〜7.5mg/dL) |
食欲不振 後肢のふらつき 四肢振戦 |
中等度 (3.5〜6.5mg/dL) |
起立不能 体温低下 四肢弛緩麻痺 |
重度 (3.5mg/dL以下) |
脱力 チアノーゼ 昏睡 |
起立不能が長引くと、ダウナー牛症候群(乳牛の産前産後起立不能症)へと移行するケースも少なくありません。ダウナー牛症候群へと移行した牛は、約半数が死廃の転機をたどります。
乳熱の治療法
軽度から中等度の乳熱であれば、Ca剤の投与により2〜3日で症状の改善がみられます。
Ca剤の静脈内投与は不整脈が発現することも多いため、急速投与は厳禁です。実際の現場では、Ca剤を牛の皮下に投与して、ゆっくりと吸収させるという方法もよく行われます。
乳熱の牛では低リン血症を併発していることも多く、その場合にはリンの補給も行います。
乳熱の予防法
乳熱を予防するには、乾乳後期(妊娠末期)のCa摂取量を抑えることがポイントです。
あえて分娩直前のCa摂取量を抑えることで、牛の体内における骨や腸管からのCa吸収能が高まります。その結果、分娩後に血中Ca濃度が低下しても、即座に骨や腸管からCaを補える状態になるというわけです。
他にも、分娩の約1週間前にビタミンD3製剤を投与したり、分娩後に経口Ca剤を飲ませたりするのも効果的です。
第四胃変位
第四胃変位とは、第四胃内にガスが貯留して消化障害を引き起こす病気です。
本来、牛の第四胃は腹底に位置しますが、ガスが貯留することで右または左の腹壁に沿って上のほうへと変位します。
右方変位の場合は、変位した第四胃と腸管がねじれることで第四胃捻転へと移行するケースも珍しくありません。
第四胃変位は、分娩後1か月以内の乳牛に発生が多い病気ですが、肥育牛で発生することもあります。
第四胃変位の症状
第四胃変位の主な症状は、食欲不振や排糞量の減少です。
聴診器で腹壁を聴打診すると、キンキン・カンカンという特徴的なピング音を聴取できます。
第四胃変位の治療法
外科的手術により第四胃内のガスを抜いて整復し、腹壁に固定するのが最も治癒率の高い方法です。
第四胃変位の牛では電解質の不足(低Clなど)がみられる場合も多いため、高張食塩水の静脈内投与も効果的です。
第四胃変位の予防法
第四胃変位を予防するためには、徹底したエサの管理とボディコンディションスコアのチェックが欠かせません。
泌乳期・乾乳期のそれぞれで押さえておくべきポイントがあるので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
乳房炎
乳房炎とは、乳房内に微生物が感染して引き起こされる炎症性の病気です。乳牛の病気のなかでも圧倒的に発生が多く、病傷件数被害率の約24%を占めるといわれています。
(参考:日本獣医師会「家畜共済事業の現状と課題」)
乳房炎の症状
症状があらわれる臨床型乳房炎と、症状があらわれない潜在性乳房炎に分けられます。
臨床型乳房炎では、乳房の腫脹・硬結・発赤・疼痛の他にも、発熱・食欲不振・乳量低下といった全身症状もみられます。
潜在性乳房炎は、明瞭な症状はみられないものの、乳量が低下したり乳質が悪化したりすることで経済的ダメージをもたらすやっかいな病気です。
乳房炎の治療法
乳汁検査により原因菌を特定し、感受性のある(効き目のある)薬剤を投与するのが基本的な治療方針になります。
発熱や乳房の腫脹があるときは、抗炎症剤を投与して症状を緩和するのも大事なポイントです。乳房を物理的に冷やす冷庵法や、生理食塩水による乳房内洗浄を行うときもあります。
大腸菌性乳房炎では、エンドトキシンショックの対症療法として高張食塩水や副腎皮質ホルモン剤の投与も効果的です。
乳房炎の予防法
乳房炎の原因は多岐にわたるため、発生をゼロにするのはなかなか難しいことです。
「これさえやっておけば安心」という決定的な予防法はないため、効果がありそうな方法をいろいろ試しながら様子をみるのが一番かなと思います。
参考までに、乳房炎の予防法をいくつか紹介しておきます。
- 搾乳時の消毒や衛生管理を徹底する
- 牛舎・牧野の衛生管理を怠らない
- ハエやアブなどの媒介昆虫対策をする
- セレン・ビタミンEをエサに添加する
- 遺伝的に乳房炎になりにくい血統の牛を優先して残す
- 暑熱ストレスを解消する
- 乳房炎ワクチンを接種する
費用対効果も検討しつつ、できそうな対策からはじめてみましょう。
まとめ
親牛の病気は発見が遅れると治療が長引くだけでなく、経済的にも大きな損失をもたらします。
予防するためにはエサの管理や衛生管理を徹底しつつ、気候・害虫・遺伝による影響といった目に見えないところにも気をつけなければなりません。
調子が悪そうな牛を見つけたら、症状が軽いうちに治療することも大切です。今回の内容を参考にして、親牛の病気の早期発見・早期治療に努めましょう。