牛の妊娠期間は、品種や胎子の性別によって差がみられる場合があります。それぞれの妊娠期間を理解することは、生産管理をするうえで重要です。
今回は、牛の妊娠期間や妊娠診断の方法について紹介します。ぜひ日頃の牛の管理に役立ててみてください。
牛の妊娠期間
牛の品種ごとの妊娠期間は次の通りです。
品種 | 妊娠期間 |
---|---|
ホルスタイン種 | 約280日 |
ジャージー種 | 約280日 |
ブラウンスイス種 | 約290日 |
黒毛和種 | 約285日 |
褐毛和種 | 約287日 |
上記の日数はあくまで目安であり、実際には他のさまざまな要因も影響するため、妊娠期間にはバラツキがみられます。
- 初産牛の妊娠期間は、経産牛よりも1〜2日短い
- 雄胎子の場合は、雌胎子よりも1〜2日長い
- 双胎の場合は、単胎よりも3〜6日短い
牛の品種や胎子の性別なども考慮すると、より精度の高い分娩予測ができるようになるでしょう。
分娩予定日の計算式
乳牛の分娩予定日は「授精した月から3を引き、授精した日に6を足す(肉牛なら11を足す)」という計算式で求められます。
5-3=2(月の)
1+6=7(日に分娩予定)
となり、分娩予定日は2024年2月7日になります。
妊娠のはじまりは、子宮内の胚が着床した時点だと定義されていますが、着床の時期を正確に予測するのは簡単なことではありません。そこで実際の現場では、上記のような簡易的な計算式を用いて分娩予定日を算出しています。
牛の妊娠診断
牛の妊娠診断の方法には、次のようなものがあります。
- ノンリターン法
- 直腸検査法
- 超音波検査法
- プロジェステロン測定法
- 頸管粘液検査法
授精しても妊娠が成立せず、非妊娠期間が長く続くと、農場にとって大きな経済的損失になりかねません。生産を伴わない期間のエサ代、子牛の販売による収入の遅延、授精用精液の使用本数増加、親牛の生涯における乳生産量の低下など、総合的にみると非常に大きな損失です。このような悪影響をなるべく最小限に抑えるためにも、早期の妊娠診断が重要になるというわけです。
牛の妊娠診断法として知られている5つの方法について紹介します。
ノンリターン法
ノンリターン法とは、授精・交配・胚移植後に発情が回帰しないことを妊娠とする判定方法です。特別な技術を必要とせず、発情周期に合わせて牛をよく観察するという簡便な方法であるため、広く利用されています。
しかし牛は妊娠していても発情徴候を示したり、妊娠していなくても発情徴候があらわれない場合も多いため、確実な診断方法とはいえません。あくまでも他の診断方法の補助的に利用するのが良いでしょう。
直腸検査法
直腸検査法は、獣医師の腕1本で診断できる最も実用性の高い方法です。教科書的には、胎膜スリップ・妊角膨大・羊膜嚢触診・胎子触診・子宮動脈触診といった方法が紹介されています。
●胎膜スリップ
胎膜スリップとは、胎子を覆う胎膜と子宮壁を直腸越しにつまみ、子宮壁から胎膜がストンッと滑り落ちることを確認する方法です。妊娠40日を過ぎた頃から、胎子がいない不妊角でも胎膜の触診ができるようになります。妊角に触れずに行えるため、比較的安全に妊娠診断ができる点がメリットです。
●妊角膨大
牛では妊娠40日頃から胎水の増加により妊角と不妊角の大きさに差がみられるようになります。しかし子宮の大きさだけで診断すると、子宮蓄膿症と間違えるリスクもあるため注意しなければなりません。子宮蓄膿症の場合は子宮全体に膿が充満するため、左右対称性の膨満感を触知したり、膣鏡を使ってみると膣壁に膿がへばりついていたりするので、覚えておくと鑑別診断の助けになります。
●胎子触診
胎子の触診が可能になるのは、早くても妊娠70日以降です。ただしこの時期の胎子の触診は流産の原因にもなるため、できれば避けたいところです。
●子宮動脈触診
妊娠90日頃になると、直腸検査で子宮動脈の肥大と振動を確認できるようになります。子宮動脈は右と左で2本存在しますが、基本的には妊角側の子宮動脈が発達します。牛では妊娠5〜7か月になると、子宮の重さが増して腹腔内へと沈んでいってしまいます。この時期には直腸検査で子宮に触れるのが難しくなるため、子宮動脈の触診による診断が有効です。
超音波検査法
超音波検査法は、現在普及している牛の妊娠診断法のなかでも、最も早い時期に正確な診断ができる方法です。プローブ(探触子)を直腸内に挿入して妊娠診断を行うため、胎動や心拍動を非侵襲的に観察できるのも大きなメリットでしょう。妊娠20日以降から胎胞がエコーフリー像として観察されるようになり、妊娠の進行に伴って胎子や胎盤も観察できるようになります。
プロジェステロン測定法
妊娠していない牛では、発情前後の4〜5日に、血中および脱脂乳中のプロジェステロン濃度が1ng/ml以下まで低下します。しかし妊娠が成立すると、プロジェステロン濃度は4〜8ng/mlを維持することが知られています。このようなホルモン濃度の変化を利用した妊娠診断法が、プロジェステロン測定法です。
授精後21〜24日のプロジェステロン濃度を測定し、1ng/ml以上の値を示したものを妊娠陽性、それ未満を陰性と判定します。
頸管粘液検査法
頸管粘液検査法とは、粘液の性状により妊否を診断する方法です。牛の頸管粘液は、発情期には透明な水飴状になりますが、黄体期には水分が減少して硬くなります。
頸管粘液採取器を用いて採取した粘液が、コロコロとしたモチ状を示した場合は妊娠陽性と判定します。この診断法は、妊娠40日頃から実施可能です。
まとめ
牛の妊娠期間は「乳牛が280日、肉牛が285日」と覚えるのが一般的ですが、実際には牛の品種や胎子の性別によりバラツキがみられます。今回紹介した「分娩予定日を求める計算式」や「妊娠期間に影響を与える3つの要因」などを参考にすると、分娩管理がしやすくなるでしょう。
妊娠診断をするときは、授精後の日数によって複数の方法を組み合わせるとより正確です。実際の現場では分娩予定日や授精後の日数が診断の助けになる場面が多いため、今回紹介した内容を覚えておくと、いざというとき役立つかもしれません。